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瑞希はちょっとムッとしてから首を左右に振った。
「私、シャイなので」
「おっと……シャイね。シャイシャイ……いやいや、はいはい」
里香の顔に一瞬浮かんだ、呆れたような小馬鹿にしたような半笑いを瑞希は見逃さない。
眉を顰める瑞希に構う事なく、あるいは気付くことなく里香は話を続けた。
「積極性を発揮できないけれど、どうにかその恋を成就させたいという訳ね」
「そうです。できればなんですけど、やっぱり彼から告白してきて欲しいっていうか……」
「シャイ……だものねぇ」
小さくため息。
「できますか? 彼の心を私に向けるなんてことが」
「ええ、もちろん」
里香はカウンターを離れ、壁際の棚に近いた。
「どこ置いたっけ……あ、あった」
ぶつぶつと言いながらしばらく棚を見回していた里香は、やがて小瓶を一つ取り上げて瑞希に見せた。
「これとかね」
ガラス製の小さな瓶は、手の大きい者なら簡単にその中に握りこんでしまえるようなサイズだった。中には透明度の高い赤色の液体が入っているのが見えた。
「これは……? 随分小さな瓶ですね」
「この中に入っているのは、人の心を振り向かせる魔女の秘薬よ」
軽く瓶を揺すると、微かにとろみがあるのかゆらりと赤い液体が揺れ動く。
「というと?」
「惚れ薬、という事になるかしらね。俗っぽい言い方だけど」
「惚れ薬」
ベタかつ分かりやすい名前のおかげで、瑞希にとってそれ以上の説明は不要だった。
「これをほんの一滴。何かに混ぜて彼に飲ませれば、その人の心はあなたに向くわ」
瑞希はジィッとその瓶を見つめたまま、何度か頷いた。そして、すぐに里香の方へと視線を戻す。
「おいくらかしら」
「何という決断力。尊敬に対するわね。ならば私もはっきり言うわね」
瑞希の迷いなき眼差しに向けて、里香はブイサインを出して見せた。
「ズバリ、二十万」
「結構高いのね……」
「そうかしら。今からその人と恋を育んでいく時間と費用を思えば、安いと思うけど」
「確かに……」
「本当なら五十万ぐらい頂きたい代物よ? それをあなたのスピード決断に免じて半額以下の二十万。今だけの大特価なんだから、迷うまでもないんじゃないかしら?」
里香の煽り文句を聞くほどに、瑞希の中では胡散臭さが加速していった。
神秘性は美しいクラウチングスタートと共に全速力で走り出していた。同時に、瑞希の心の中にはインチキという言葉が浮かび上がってくる。
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