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クガに恋愛相談したわけではない。
悩みがないわけじゃない、という話をしたときに、いつも力になってくれる店があると向こうから言い出したのだ。
「マジもんの魔女がいてぇ、私、めっちゃ頼ってんですよぉ」
なんて言っていた。
嘘付け、とその時は思ったのだ。
だが、好奇心がなかったわけではない。彼女自身、そういう話が嫌いではなかった。
それに、どうやって自らの恋心にどん詰まり感を覚えていた。
「そのお店、どこにあるの?」
気が付いたらそう尋ねていた。
だが、入店直後には感じた神秘性もすっかり薄らぎ、胡散臭さのほうが際立ってきている。ひょっとすると、クガもインチキグループの一員かもしれないとすら思い始めていた。
そこにきて二十万とくれば、確認の一つでも取りたくなろうというものだ。
「で、どうする?」
「何か、お試しで魔法を見せてください」
瑞希が言うと、里香はああ出た出たと言わんばかりにため息を一つ吐いた。
「そう言う事を言うお客様は多いわ。けど、魔法ってそんなにおいそれと見せられるものじゃないのよね」
「でも、二十万って結構な大金ですよ。おいそれとは出せません……」
一歩も引かぬとばかりに仁王立ちする瑞希をしばらく見つめた後、里香は静かに一度深呼吸してから問いかけた。
「じゃあ、この話はナシね」
「え……」
「魔法というのはね、言葉だけが独り歩きしているけれど、実際そんな便利なものではないの。むしろ不便と言えるわ。特に今の世はね。薬を作るには何日もかかるし、呪文はややこしくて長ったらしいし、箒でホイホイ空を飛べるわけでもないし、手のひらから火球を出すことすらできないのよ」
それに何をやったって、トリックだ、なんていわれるし、と顔をしかめて付け加える。
その表情は、これまでの苦い経験を感じさせるかの如く、堂に入ったしかめ面だった。
「ただ、使えないわけじゃない。魔法の力は使い方によっては絶大よ。その使い方で私は商売してるわけ。隙間産業みたいなことかしらね」
豆炭がにゃあ、と一つ鳴く。
里香はその頭を優しく撫でてから、さらに言葉を続けた。
「私達の魔法が起こす現象は、どれも簡単に説明のつくものではないの。だからこそ、信用して貰えないなら買っていただかなくて結構というわけ」
里香はそう締めくくり、一つ肩をすくめて見せた。
無理やりにでも売りつけられるのではないかと警戒していた瑞希にしてみれば、とんだ拍子抜けもいいところだった。
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