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そして、ゆううつの終わり
手紙の内容は、めるるにとって意外でもあり、納得でもあり、読んでしばらく、茫然としてしまった。
半年前に「好きなひとができた」と言って別れを告げるとも告げないとも言えない微妙な感じで離れていった恋人は、とっくの昔にその「好きなひと」と別れていた。
そしてこの度手紙を送ってきたのは、「新しい恋人ができたから」なのだという。
「めるるにはかっこ悪い自分を見せられなかった。どうか君も、前を向いて進んでほしい」と手紙には記されていた。
勝手だよね、とめるるは思う。すごくすごく勝手だよね。
急な別れ方をしたから、めるるはずっと引きずっていた。
戻ってくることもあるのではないかと、一縷の望みをつないでいたことも否めない。
毎朝ラインを送ってくる男友達は、唯一の彼との共通の知人だから無下にできなかった。友人が元恋人の近況を知らないわけはないだろう。きっと口止めされていたに違いない。
めるるは床に寝っ転がった。
「あいつー。諜報員としても役に立たなかったなあ」
無意識のうちにチョコボールの箱を振ると、それが最後の一粒だった。
めるるは、もう元恋人のことを考える必要も、迷惑な友達からのラインを甘んじて受け取る必要もないのだと思った。
「空っぽだな。空っぽですよ」
そう呟くと、涙が出てきた。半年間流れることのなかった涙が頬を温かくつたう。
明日からは、新しい一日を始めよう。
ただ今日この夜は、空っぽな気持ちに存分に浸っていたかった。未来のことは考えず、もう二度と手に入らない時間に思いを馳せて、存分に浸っていたかった。
久しぶりにお酒でも飲みましょうかね。
「ああー。今日は疲れたあ!」
めるるは伸びをすると、冷蔵庫に向かった。チョコボールには目もくれずに、よく冷えた缶ビールを一本と黒オリーブを取り出した。
《了》
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