会社でもゆううつ

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会社でもゆううつ

 もう八月だ。きょうも既に、ぎらぎらと太陽が照り付ける予感がする。  めるるは水色のストライプのノースリーブ・ワンピースを慌ただしく着て、白いサンダルを履いて出かける。  迷ったが、黒い日傘を選んだ。服に合わなくても、陽に焼けないようにするのが最優先だ。  めるるの勤める会社は、自宅から二駅のところにある。  「水のトラブル039」でお馴染みの、水道関係の修理を請け負う会社「ウォーターレスキュー」の一営業所だ。会社には制服があるので、更衣室で慌ただしく着替える。  着替え終わって外階段を上り、あとちょっとで事務所の入り口だというその瞬間に、めるるのスカートのボタンが勢いよく飛んだ。 「え? 太った? 私、太った? それとも金属疲労?」  めるるは動揺を隠せない。 「金属疲労はないね。だって金属じゃないもんね」  後ろから声を掛けてきたのは、中条夢子先輩だ。  「夢子」という名に似つかわしくなく、さばさばしているひとだ。    夢子先輩はめるるの肩をぽんぽんと慰めるように叩くと、そのまま先に行ってしまった。めるるは仕方なくスカートを抑えながら事務所に入り、デスクの引き出しを開けて、書類を止める用のダブルクリップを取り出す。身体をひねって、なんとか左脇のボタンのところをクリップで止めた。クリップをベストで隠す。  ポケットに仕舞っていたチョコボールの箱を取り出すと、いく粒か口のなかに放り込んだ。  ついてない、とめるるは思う。ついてないときやむしゃくしゃしたときは、チョコボールを食べることにしている。スカートのボタンが飛んだのはチョコボールの食べすぎではないか、という考えは、いまのところ、めるるの念頭に浮かんでいない。
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