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10.わかりやっすい名前!!
さぁて、どうすっか。
広場にいるダッジさんのとこには、今はなんか行きたくないな。すごく惨めな気分……。
俺はとりあえず、町の中を散策するように歩いた。すれ違う建物を見ていると、あることに気付く。それぞれ造り方が違う。なんだこれ?
元世でも外観が違う家が並ぶが、あれはただ外壁の種類が違うだけ。基本的な家の構造は、工法にもよるが造り方は統一される。この世界の木造住宅は、みんなバラバラの造りだった。
しかも、やっぱり色々間違えて構造材が組まれている。柱や梁は使う箇所により、長さと太さを変えなければいけない。力のかかり方が違うから。
でも、どう見ても細かったり、組む順序が逆だったりしている家の多いこと……。これ、造るジェイクによって差があるな。
工法が統一されていない。これだと、耐久年数に大きなバラつきが出る。もし、全ての家の値段が同じだったら、最悪なことがこの町には起こっている。
ただ、気になることもある。これで十分な世界なのか?
日本の木造住宅は世界から見て、かなり頑丈に造られる。理由は想像がつくだろう。
自然災害が多い国だから。台風や地震、大雪や津波……。過去の災害を乗り越えるたびに、日本の家は進化を続けてきた。
しかし、海外で日本の家が売れるかと言えば、そうでもない。例えば、地震のない国で震度7に耐える家なんか必要ない。ただ無駄に値段が高い、過剰耐久の家になるだけ。
この世界も、多分大した災害ないんだろうな。じゃなきゃ、こんな造りの家が並ぶ訳ない。
しばらく歩いていると、半分崩れかけた2階建ての家を見つける。そこには1人の男が何かの作業をしていた。少し離れたところで、立ち止まって様子をみる。
なんだ? どうすればこんなことが起こる? こんな光景、解体現場か地震で倒壊した家を報道するニュースくらいでしか見ないぞ。しかも、両隣の家は何ともないのに、この家だけこの半壊状態。
作業をしていた男は、足取りが重そう。表情はお化け屋敷が苦手なのに、友達に騙されて入っちゃったくらい暗い。事情聞くほうが早いか。
「あのぉ、すいやせん。……どうして家崩れちゃったんすか?」
「ん?」
男は作業を止めて、俺を怪奇の目で見る。まぁもう慣れたよ。
「……一昨日の地震で、崩れちゃったんだ」
地震あるんか~い!! 頭の中で、やたらデカいワイングラスを乾杯してぶつけ合う音が響き渡った。笑えないけど。
「そうだったんすか……」
「建てたばかりだったんだけどね……。ガレキが道の邪魔だから片してるんだ」
「でも、保証とかあるんすよね? 直して貰えばいいじゃないっすか」
そう。保証だよ。家を建てると瑕疵担保責任保険と呼ばれる保証が付く。
建てた家に、造る側の施工不良などで不備があった場合、無償で直してもらうシステム。元世では常識。
この家は建てて間も無く地震で半壊。間違いなく、造り手側が施工不良で直さなければならない。
「保証? そんなのないよ……。崩れたら仕方ない、で終わりなんだ」
「うっそ~ん」
空いた口が塞がらない。仕方ないで終わりってなんだよ。
「マジっすか!? 納得いかないでしょ!? 造った奴に、文句言えばいいじゃないっすか!!」
「ジェイクさんの建てた家が倒れたら、みんな文句なんて言えないよ……。国家資格持って造ってもダメだった。そうなるんだ」
「は? 国家資格なんて関係ねぇっしょ」
「文句言ったところで、直す費用は自腹なんだよ。しかもジェイクさんに直して貰うと……すごく費用高いんだ」
「……」
「……だから僕はこの家を諦めて、家族と賃貸に引っ越すんだ」
「いやいや、諦めるって……。いくらでこの家買ったんすか?」
「2000万ギルだよ。一所懸命、お金貯めたんだけどね……」
感極まり、泣き出す男。俺の腑が煮え繰り返る。喉が締め付けられる感覚の怒り。
あり得ねぇ。ふざけんな。
この人がどんな思いで、この家買ったと思ってんだ。家族もいるじゃねぇか。2000万なんて金、庶民からすりゃ血と涙と汗の結晶だぞ? 買い手を舐めてるとしか思えねぇ。
「この家、誰が建てたかわかります?」
「え? ジェイクのピグさんだよ」
「ピグさん? どこにいるんすか?」
「この道をまっすぐ行って、二つ目の路地を右に曲がると、工務店があるんだ。何人かジェイクさんが働いていて、ピグさんはその1人だよ」
「おーけーっす。その馬鹿連れてくるんで、片付けなんてしなくていいっすよ」
「え? どうするつもりなんだい?」
「まぁ、待ってて下さい」
「う、うん。ちなみに僕の名前はモブオだよ」
モブオて!! わかりやっすい名前!!
「俺は賢志郎です」
殴り込みだ。引きずってでも、そのピグとか言う野郎連れてきて直させてやる。国家資格があろうとなかろうと、こんなふざけた家……俺が認めねぇ。
モブオさんの言う通り、工務店の前に着いた俺は建物を見て愕然と立ちすくんだ。
ちょーデカい。木造の2階建てだがやたら横に長い。奥行きも相当ある。国会議事堂か!!
ジェイクが高給って言われてたが、その建物を見てやっと腑に落ちた。ほぼ門に近い扉を開いて中を覗く。
「……ちわ~。三河屋ですけど」
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