2.はいはい。そういうことね

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2.はいはい。そういうことね

 とりあえず、歩くしかないっしょ。  俺は360度果てしなく続く草原の中、歩き始めた。前を向いて歩くと何かにつまずくかも知れないので、足元に視線を落として歩いた。  草はちょうど膝下くらいまで伸びており、かなり生い茂っているせいか、少し歩きづらい。  なんなんだろう。この世界は……。  って言うかここが死後の世界なら、天国か地獄かすらわからん。そもそも天国だの地獄だのって話は、生きてる人間の勝手な妄想なんだよな?  今の格好も作業着で釘袋も腰に巻いている。棟から落下した時の姿そのままだ。持っているものは……。 ・鉛筆1本 ・手のひらサイズのメモ帳 ・タバコ16本 ・使い捨てライター 釘袋の中身 ・玄翁(げんのう)(素人はトンカチという) ・スケール(巻尺、メジャーのこと) ・八分の追入鑿(おいいれのみ)(幅が24ミリの彫刻刀みたいなやつ) ・小さいバール ・カッターナイフ ・プラスドライバー ・五寸法師(長さ150ミリのL字型物差し) ・釘7本  スマホは車に置いており、手元にない。死後の世界に身に付けているものを持ち込めるなら、もちっと何か便利なの持っていきたかった。  まぁ死ぬこと自体、予測なんてしてないから無理か……。  釘袋は正直、死後の世界で必要あるかわからなかった。でも、永い間仕事を共にしたことで道具には愛着があり、一緒に成仏したいと思ったので腰から外さなかった。  成仏と言えば、三途の川はどこなんだ?  草原ばかりで川とかないけど……。あ、六文銭もないわ。  三途の川を渡る時の、渡し賃として必要な六文銭。俺は親父を肺がんで亡くし、その時の送り人から六文銭の話を聞いた。  戦国武将で有名な「真田幸村」が戦場で掲げた赤い旗にも、模様で六文銭が描かれていたらしい。決死の覚悟で戦うと言う、粋を感じさせる話だった。  現代の葬儀では、亡くなった仏さんを棺に入れる時、六文銭を書いた紙を一緒に入れる。  ……それダメじゃん?  多分、今頃俺の遺体も棺に入れられてるかも知れないけど、六文銭こっちに届くのかい? 無一文で三途の川、強行突破出来るの?  もし渡れなかったら、成仏できずに河原の石を永遠と積まなきゃいけないのか?  あれ? 六文銭ないと服剥ぎ取られるんだっけ? 誰に? まぁ、三途の川の話も、ほんとかわからんけど。  そんなことを考えてると、一本の砂利道が急に現れた。 「お! 道だ!」  ……しかし、道の途中に出たから、どっちに行けばいいのかわからんぞ。どっちを見ても道の先は地平線で、建物らしき物もない。  これは……右で。超適当に右を選んで進んだ。  3時間くらい歩いただろうか。時計がないから時間もわからん。というか、恐ろしく疲れた。足の進みも遅くなる一方。汗もかいていた。喉もカラカラ。  てかなんで死後の世界に体力があんだよ。元々歩くのが嫌いな俺。徒歩で2分のコンビニも車を出すほど。  それでも道が続く限り歩き続けた。すると、道の先に小さな小屋を見つける。来た。ついに来た。あの小屋には何かある。期待に胸を膨らませて、少し早歩きになる。  小屋に辿り着き、ひとまず休んだ。もう歩く体力は残っていない。大工と言えど、持久力があるわけじゃない。  マラソンとか大っ嫌いっす。  体育座りで小屋を眺める。木造だが、明らかに素人が建てた陳腐な造り。台風でも来たら木っ端微塵だなこれ。  小屋の外壁には、(くわ)などの農耕具が立てかかっており、置き場かなと思った。すると、小屋の扉が軋む音を上げて開いた。  中から、中背中肉で麦わら帽子を被ったオッサンが出てきた。オッサンは俺に気付かず、鍬を取ろうとしている。  え? ものすっごい違和感。  ここ死後の世界でしょ? このオッサンは何? どう見ても、小汚いオーバーオール着て農家の格好してるし、これから仕事いきますよって感じだし。  ただただ思考停止で見つめる俺に、振り返ったオッサンが俺に気付いた。 「ぬおっ!!」  ぬお? 「だ、誰だ君は!?」  ん~……。見た目はアメリカ人っぽい顔付きで、肌の質感的に50代くらいなんだけど、完全に日本語喋ってんな。いやいや、あんたが誰なんだ? 「き、聞こえているのか……? 言葉がわからないのかな?」  恐る恐る俺に近寄るオッサン。俺は座ったまま聞き返してみた。 「えーと。……誰ですか?」 「え!? あ、言葉わかるのね!」 「はい。日本語ですよね?」  オッサンは急に不思議そうな顔をした。 「ニホン語? ……ホンニ語だよ?」 「は?」  ホンニ語だと? 何言ってやがんだこのオッサンは。文字入れ替えただけじゃねぇか。 「いや、日本って国の言葉ですよね?」 「違うよ……。ホンニ大陸の言葉だからホンニ語なんじゃないか。まさか知らないでホンニ語使っていたのかい?」 「はぁ……」  意味がわからん。ホンニ大陸なんて聞いたことない。他に聞かなきゃいけないのは……。 「ここは、死後の世界なんですよね?」 「ん!? いやぁ……現実だけど……。君、頭大丈夫かい?」  頭大丈夫? の質問に対する答えって、大丈夫以外ないだろ。恐らくこのオッサンは、嘘を吐いている。  こういう時、あの人だったら嘘を簡単に見破るんだろうなと思う。名前なんだっけ?  ……あ、ダイゴリストのメンタさんだ。やっと思い出した。今だけメンタさんの能力が降臨してこねぇかな。  俺は黙って少し考えた。そして、気付いてしまう。今自分の置かれている状況に。  はいはい。そういうことね。  他の人に言われなくても、自ら考えて真実に辿り着くことができる人間。それを人は、「天才」と呼ぶ。天才の俺が導き出した至高の答え。それは……。  これ「ドッキリ」だろ。 ◆
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