55.浮浪者

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55.浮浪者

 翌日から俺は、詰所でソフィア邸のプランニングを始めた。  建設地は、館から少し離れた町を見下ろせる丘の上。匠工務店の家と隣同士で建設する。  ハヤミ建設にくる依頼も無視は出来ない。アムロ達に協力してもらい、俺はなるべくプランニングに集中させてもらう。 「ピグさん、材料の注文間違えてるでやんす。……足りないでやんす」 「え、ウソ!? お前3束でいいって言ったじゃん!!」 「最終的に発注したピグさんの責任でやんす」 「はぁ!? 汚ねぇよお前!!」 「2人とも、喧嘩してる場合じゃないでしょ!!」  その間、モブゾーさんが資金調達係として動いた。マリンちゃんも事務仕事の合間を見ながら、モブゾーさんと一緒に金持ちのところへ訪問してくれた。  男性の金持ちへ訪問するときは、マリンちゃんに寒い中、胸の露出が多い服を着せてプレゼンする。 「こ、これ……大丈夫かな? ちょっと品がないような気もするんだけど……」 「うーわヤバいマジで。絶対イケる。悩殺で成約取れるわ」  モブゾーさんのお色気作戦は劇的な成果を上げた。男性に対する成約率は、なんと100パーセントを叩き出す。  しかし、この作戦はモブゾーさんの嫁であるティナちゃんの耳に入り、大騒ぎとなる。 「あなた……マリンと一体なにやってんの?」 「え? い、いや……すんごい誤解です」  「は? なによ?」 「と、とりあえずフライパン下ろそうか」  マリンちゃんによる必死の説明で、何とか治まったらしい。  しかし、お色気作戦は使用不可となった。その後はモブオさんも参加して、なんとか資金をかき集めてくれていた。  ピグは父ベーアさんにこの件を相談。まさかの退職金を前借りして、バースさんと同じく1500万ギルを出資する。さらにマッコさんも乗ってくれた。 「ベーア。本当にいいのか?」 「お前も人のこと言えんだろ。バース」 「ケンシロウちゃんのためとなると、ほっとけないわよねぇ」  そんな中、プランニングは壁にぶち当たる。俺は家をプランニングする時、どうしても機能的に考えてしまいがちになる。  意匠的なデザインに関しては、ダッジさんをプロデュースした際のメイキャップ並みにセンスがない。こんなんでいいのだろうかと悩んでいると、起死回生の閃きを得る。  そう、マミーさんだ。ハイセンスな彼女の助言をもらおう。なぜか外を浮浪者のように徘徊していたダッジさんを発見。誘拐する。 「ちょっと事務所まで来てもらおうか?」 「……は、はい?」  事情を説明して、マミーさんにもプランニングに参加してもらった。しかし、ここで問題発生。 「ん~、イメージが掴めないの」  基本的に図面を見慣れない一般人は、平面図を頭の中でイメージ化することが苦手。マミーさんも例外ではなかった。  それゆえに、ダッジ邸のプランニングもかなり手こずっていたらしい。俺はイメージをわかりやすくするため、ソフィア邸の縮小模型を作成した。元世でも、設計士がお施主さんに対してよくやる手法。  薄いベニヤを切り、接着剤で組み立てる。この世界の接着剤は樹脂を元に作られており、少し乾燥が遅いがしっかりと接着する。  模型を見ながらマミーさんのアドバイスをもらう。 「ここに間接照明が欲しいわね。それは可能?」 「そしたら、天井高をもう少し上げないとっすね」 「この階段下はどうするの?」 「今のところ塞ぐ予定っす」 「え〜あり得ないわ。開放感なさ過ぎる」 「すいません……」  みっちりとプランニングを練り、納得のいくものが出来た。当初の予算内にも収まる計算。 「マミーさん。本当にありがとうごさいました。お2人の家もすぐに建てたいとこなんすけど」 「いいのよこれくらい。あんまり気負い過ぎないで周りを頼りなさいね。私達の家は勝負が終わってからで大丈夫だから気にしないで」 「それには……勝負に勝たないとですね」 「このプランなら絶対に勝てるわ。だって……優しさに溢れた家だもの」 「……心強いっす」    そうして……2週間が過ぎようとしていた。モブゾーさんによる資金調達の結果。  なんと3000万ギル!!  ・バースさん……1500  ・ベーアさん……1500  ・マッコさん……500  ・町住人出資……3000  目標予算を大きく上回る、計6500万ギルを資金として獲得することが出来た。 「モブゾーさん。あなたの案に命を救われた気分っす」 「いやいや。マリンちゃんやモブオさんの協力がなかったら、この成果は無理だったよ」  モブゾーさんを胴上げする一同。もう勝負に勝ったかのような騒ぎようだった。 「それとね……勝負の話を聞いて、自ら出資を願い出た人達もたくさんいるんだ」 「うそ?」  それは、ハヤミ建設が今までこなしてきた依頼のお客さん達だった。 「みんなケンシロウさんを応援してるって、お金を出してくれたんだよ」 「そうなんすね……」  こうして、みんなの思いが集結し、資金問題は解決した。  次に、ソフィア邸に関わる協力業者達と打ち合わせ。予算を確認しながら詳細図を元に話し合う。 「え? この柱、干渉しちゃうんすか?」 「そうですね。量産の規格で頼むと当たります」 「オーダーサイズって値段出せます?」 「出せますよ! え? 今?」  先に手板を作成し、アムロに渡しておいた。俺が業者と打ち合わせしている間、アムロ達で墨付け・手刻み作業を進める。途中、俺がチェックをする。 「アムロ。ちょと来て」 「はい?」 「これ番付が逆な」 「あー!」 「はい残念やり直し。手板をよく見直せ」 「……すいません」  鳶と基礎の打ち合わせをするため、現地へ向かった。すると驚愕の光景を目の当たりにする。 「……な、なんだこれ?」  なんと匠工務店は、ジェイク達総出で建設予定地の脇に仮設宿を建設中だった。しかも風呂付き。  近くにゲンさんが立っている。 「ゲンさん」 「あ、ケンシロウさんじゃない。どうしたの?」 「そりゃこっちのセリフだわ。なんすかこれ?」 「仮設宿よ。半年間も町からここに通うなんて耐えられないでしょ?」  信じられん。これ建てるだけで、けっこう費用いくぞ? 材料はバースさんとこじゃなくて、別の材木屋使ってんな。 「あなた達はどうするの? まさかここまで歩いて通うわけ?」 「考え中でござんす」 「そう。従業員が働きやすい環境を作るのは、代表として当然の義務よね」  ッチ。それが出来るのは、町の人から工事金ボッタくったからだろが。 「んじゃ、俺打ち合わせあるんで」 「あ、そう。ばいば~い」  手を振るゲンさん。……うぜぇ。余裕ぶっこいてんのがめっちゃ伝わってくる。あんなんウチの連中が見たら、劣等感でやる気なくなるわ。せめて、移動だけでも楽にしてやりてぇな。  俺は打ち合わせを終えた後、町の馬車を運行している会社へ向かった。  この町には移動方法として「馬車」か「人力車」を利用できる。イメージとしては馬車がバスで、人力車がタクシーのような感じ。  木造2階建ての会社。  扉を開けると、すぐ目の前に対面式カウンターの受付があった。奥にはオフィスのような雰囲気で事務机が並び、女性従業員が数名いた。 「すいません」 「あ、はい?」  奥から40代くらいの女性がこっちへ来る。 「どうされました?」 「馬車の定期便を契約したいんすけど」 「あーはいはい。場所と人数と期間をこちらに記入して貰えます?」 「あ、はい」  あ、期間をいつからにすればいいんだ? まだ手刻み終わってねぇぞ……。 「ちょとまた後日に申し込みたいんすけど、料金表みたいなやつってあります?」 「ありますよ! ……え~これですね。人数によって馬車の規格が変わるのよ」 「……なるへそ」  ん~、4人だと……キャリッジ、コーチ、ワゴンってやつだな。 「この3つは何が違うんすか?」 「キャリッジは富裕層向けね。金持ちが使うから装飾とサスが付いてるの。コーチは装飾なしで、ワゴンは両方ないのよ。だいたいみんなワゴンね。ぶっちゃけどれも大差ないのよ」  なるほど。ならワゴンでいいっしょ。 「これって前払いっすよね?」 「そうね。期間から算出した料金を、前払いで頂いてからウチが運行します」 「おーけーす。また来ます」 「はーい。お待ちしておりまーす」  こういう慣れた受付が1番話し易い。その後は、仮設便所や水の定期便などの手配をしてきた。  1か月が経ち、ソフィア邸の手刻みが完了。  土台敷のため、馬車に乗って現地に移動する。材料は前もって運送屋に手配して、現地に送っておいた。馬を利用して、一度に大量の材料を運べる。  馬車は朝と夕方に、事務所と現場間を往復する契約。期間は工事完了までの約5か月間。費用は……地味にかかった。  朝、馬車に揺られる俺達。 「ひえ~。まさかこんなリッチな移動が出来るとは、思わなかったでやんす!」  短い脚をプラプラさせるモブポン。 「毎日丘を歩きで往復してたら、それだけでバテちまう。仕事どころじゃねぇだろ」 「さすがケンシロウさんですね。びっくりしました」  現地に到着すると、3人はすぐ仮設宿に気付く。 「ちょ、匠工務店のあれは……なんですか?」 「え? ああ、超デカイ便所らしい」 「んなわけないっスよね!?」 「あれはどうみても……宿でやんすね」  3人が俺をチラ見する。……見てんじゃねぇよコラ。  土台敷を終え、ついに上棟が始まる。 ◆
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