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6.材木屋で
翌日の朝、首後ろの痛みで目が覚める。
前日の夜、ダッジさんからベッドの使用を勧められたが、残像が残る速さで手を横に振って遠慮(拒否)した。あぐらをかいて、壁に寄りかかって眠った。そのせいで、長時間首が突っ張ってかなり痛めた。
……痛ぇ。手を当てながら首を回していると、玄関の扉が開いて、汗をかいたダッジさんが入ってきた。
「あ、おはよう。よく座ったまま寝れるね」
「……おはようございます。首痛めました。……ダッジさん、なにしてんすか?」
「今日町に持っていく、野菜を積んでいたんだよ」
「マジっすか? 起こしてくれれば手伝ったのに」
「寝てるところを起こすのは、忍びないよ」
手を洗いながら苦笑いするダッジさん。だからそれ、俺がめっちゃ飲んだ水だろが。いい加減、生活の水と飲料水くらい分けろ。
まあ、相変わらず良いオッサンだけどな。
ゆっくりと立ち上がり、俺は外の空気を吸いに出る。大きく背伸びをすると、リアカーに積まれた野菜が目に入った。……積み過ぎだろ野菜!!
早朝のうちに町へ向け出発する。徒歩5時間の、俺にとってはほとんど旅。とりあえず、リアカーは俺が引いた。くっそ重てぇ……!!
「……野菜っていくらで売るんすか?」
「収穫の量にもよるけど、キャベツは1個100ギルかな」
ギル? あ、この世界の通貨か。キャベツ1個100ギルってもう円でいいだろ!! ほぼ価値一緒!!
こういう時に、魔法の言葉で自分を落ち着かせる。
異世界だから。
「そういえばケンシロウ君はジェイクなら、お金いっぱい持ってるんじゃない?」
「ん? どういうことっすか?」
「ジェイクといったら、医者と弁護士に並ぶ高給な仕事じゃないか」
「なんですとー!?」
なんでジェイクだけカタカナなんだよ。それは別として、良いことを聞いた。この世界では家や家具を造れるジェイクは、地位が高く給料もいいらしい。
日本も昔、大工の地位が高かったと聞いたことがある。
土を扱う職人を「左官」、木を扱う職人を「右官」と呼び、大工は右官だった。
天皇の宮殿の建設に関わったとして、位を与えられたそうな。今の現状は……言うまでもない。
「でも、頑張れば誰でもジェイクになれるんじゃないっすか?」
そう。大工になるのに資格はいらない。必要なものは、気合いと神経質。
「そんなことないよ! 国家資格がいるからね。ケンシロウ君も持っているんでしょ?」
……蕁麻疹出そう。
「ん〜と、持ってないざんす」
「えー!? 本当かい!? それなのにわしの家を直せたのは凄いね!」
「どんな試験やるんすか?」
「確か実技試験だったと思うよ! 内容まではわからないけど……」
もろたで工藤! 実技試験なら自信はある。
「試験っていつやってんすか?」
「いつだろう? 町に着いたら聞いてみようか」
さすがにダッジさんが何でも知っているわけじゃないか。
「他に気になることはあるかい?」
「町には、金物屋と材木屋はあるんすか?」
金物屋とは、釘や大工道具を扱うお店のこと。釘袋しかない俺は、とにかく道具がないと何も出来ない。
大工道具はこだわる人で、150種類以上揃える強者もいる。
「もちろんあるよ! どっちから行きたい? 実は材木屋さんの娘さんが可愛くて──」
「材木屋で」
ダッジさんの話を食い気味で返事した。なんだよ。そういう情報持ってんのか。隅におけないオッサンだな。
俺は後先考えず、リアカーをダッシュで引いた。30秒で力尽き、ダッジさんに交代して貰う。すまんこってすたい……。
そして、意識が朦朧になりながら町に到着した。木造の家がたくさん並んでる。2階建てもけっこうあるじゃねぇか! 階段どうなってるか見たい! 人もいっぱいだぁ!
いや……それよりも早く材木屋行きたいっす。
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