61.またみんなで遊ぼ!

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61.またみんなで遊ぼ!

 ゲンさん率いる匠工務店に勝利した俺達。  休日となる翌日、町全体を巻き込んで盛大にお祭りをあげた。その騒ぎっぷりは、急な周知で準備も時間がないはずなのに異常な盛り上がりを見せた。  元々露店が多かった町。そこで出されるものは全て無料で食べ放題とし、料理や酒が大量に振る舞われた。  馬車の会社から、屋根なしのキャリッジが貸し出されてハヤミ建設一同が町内を周回した。俺らが手を振りながらゆっくり走る馬車内には、顔を赤く染めたゲンさんがいた。  今まで隠れて生活していたのに、いきなりゲージから出されたハムスターのように小さくちょこんと座っている彼女は、極度の「あがり症」だった。  お祭り騒ぎの中、モブポンのところへジェラシーがやってくる。 「……君の道具を壊したのは僕だ。申し訳ない」 「んなもん知ってたでやんす」 「お詫びの代わりに……僕のハンマーを壊してくれ」 「嫌でやんす。道具がかわいそうでやんす。飲み比べで決着を付けるでやんす」 「おいポン。お前これ以上飲むと危険だぞ」 「っるせぇブタでやんす! キモオタは砕け散れでやんす!」 「……すでに遅かったか」  お祭りは、夜中まで続いた。  匠工務店が施工した物件は解体しないこととなった。ダッジさんが「解体するくらいなら、孤児院にしちゃえばいいのにねー」と呟いたのがきっかけ。  孤児院として無料で提供された豪邸は、周りの貴族達からかなり絶賛され、ユーゼフさんの株は爆上がりする。  調達した資金は、出資者へ利子を上乗せして返金された。「マリンちゃんと2人きりで会いたい」という男性金持ちの願いは全て丁重にお断りした。  匠工務店はバカデカい建物が縮小され、新たに出来た土地を他の住人へ新築分譲地として明け渡した。受付は引き続きアンジェラさんが担当。  ハヤミ建設と匠工務店のジェイク達総出で、今まで建っていた家の床を直す工事を片っ端から開始した。水盛り箱を使って水平にするためである。俺とゲンさんが現場監督の元、しっかりとした体制で改修される。  また、全ての家に瑕疵担保責任保険が設けられ、不備が出ている家は無償で直していった。  マリンちゃんの女子ネットワークを使い、ゲンさんの「母子家庭支援金制度」の話を町内へ拡散。町の改修工事でゲンさんの評判を回復させたこともあり、議員選挙でゲンさんはブッチギリの獲得票で当選。その後に見事、支援金制度を制定させた。  ゲンさんは自費でモブイチ夫婦に新築を提供すると決意。「他の人の幸せのために、お金を使いたい」とのことだった。  その間、ダッジ邸新築工事のプランニングを進めていた俺とマミーさん。ゲンさんを加えて話を煮詰める。  マミーさんとゲンさんの相性は抜群に良かった。阿吽の呼吸で悩んでいたプランが次々と決まっていく。……ほぼ空気と化していた俺。2人は、いつの間にかプライベートで買い物に行くほど仲良くなっていた。  ダッジ邸はやはり、町から徒歩5時間の古小屋の隣に建設すると決まった。仮設宿を設置し、建設開始。ハヤミ建設とゲンさん、ジェラシーの面子で作業を進める。  ジェラシーは俺より釘打ちや手ノコの切断が早くて正確だった。しかし、やはり首を振る癖があるらしくコルセットが外せない模様。  工期を2か月半という早さで完成させ、引き渡した。 「ダッジさん。この小屋はどうするんすか?」 「君と出会った小屋だから……残したいね」 「そうっすね……」  小屋は解体せず、残すこととなる。    ある日、ソフィアちゃんから「みんなでバーベキューがしたい」との誘いがあった。蛍を捕獲した小川近くの河原で、バーベキューを企画した。  アレサンドロさんに連れられ、杖をついてきたソフィアちゃん。明らかに何かの症状が悪化していると分かったが、誰も触れなかった。  ゲンさんがまさかの「1人キャンプ」を趣味にしていたこともあり、バーベキューで振る舞われた料理は格別な味だった。マッコさんが「これ私好きだわ~」と1番絶賛していた。もうあの人にしか見えない。  モブポンが酒を飲もうとした時、全員から阻止される。  バースさんがふざけてピグを川に投げ飛ばしたら、泳げないピグが流される緊急事態が発生。焦るバースさん。アレサンドロさんが五輪選手並みの背負泳ぎで救出した。 「大丈夫かい? ピグ君」 「ア、アレサンドロ様……」  危うくBLが誕生しそうになる。  そんな中、俺はダッジさんの首にあるホクロからチョロ毛が一本生えているのを発見。その後、俺は全く他の人の話に集中できなくなる。  貴族という身分を忘れて騒ぐソフィアちゃんとアレサンドロさん。みんなも楽しんでいた。  「友達がたくさん出来て、とっても嬉しい!」とソフィアちゃんは喜んでいた。  バーベキューを終えた帰り際、俺は彼女に今度家へ点検に行きたいと伝えた。手摺が緩んでいないかなどの確認をしたかった。日程を確認して、解散となる。  後日、ソフィア邸に向かった俺。 「いらっしゃーい!」 「お邪魔しま~す」  手摺の緩みを丁寧に確認し、1箇所だけ手直しした。 「あとはアトリエかな?」 「あ! 今はアトリエ入っちゃダメ!」 「へ? なんで?」 「絵を乾燥させてるから、ホコリたてたくないの!」 「あ~そういうことね」  ソフィアちゃんは紅茶をいれてくれた。今日アレサンドロさんは用事で不在らしい。 「ソフィアちゃんさ、アクアさんって知ってる?」 「え!? なんでケンちゃんがアクアさん知ってるの!?」 「マリンちゃんのお母さんなんだ」 「あ、やっぱり!? そっくりだからそうなのかなぁ? って思ってた!」 「アクアさんて、どんな人だったの?」 「すっごく優しくて、綺麗な人だったよ。私は小さかったけど、アクアさんが大好きだった。お母さんも当時からいなかったからね」 「そっか……」 「アクアさんからね『あなたは絶対に幸せになれるから』って言われてたの!」 「……」 「あれは当たってたのね。だって……今私とっても幸せだもん」 「……良かったね。ソフィアちゃん」 「うん! ケンちゃんのおかげだよ!」 「俺は大したことしてねぇよ。みんなのおかげさ」 「そうだね……。あ!」 「どした?」 「アクアさんがね『願いを叶えてくれる不思議な(ほこら)』の話を聞かせてくれてたの思い出した!」 「……祠?」 「そう! あれ~? どこにあるんだっけな? みんなそこで、お願いとかしてるんだって!」  神社のお参りみたいなもんかな?    その後、ソフィアちゃんと話し終えた俺は、家を後にした。「またみんなで遊ぼ!」がその時の彼女が言った最後の言葉だった。  月日が経ち、ある手紙がハヤミ建設に届く。季節は春の陽気だった。 「誰からですか?」 「……ん? アレサンドロさんからだ」  その手紙は、ソフィアちゃんが亡くなったという訃報(ふほう)だった。  彼女は、20歳という若さでこの世を去る。  死因は「子宮頸がん」だった。発見された時には、すでに末期。ユーゼフさんは色んな腕のある医者に頭を下げたが、それでもダメだったという話。  俺達は、その日の仕事を全員休みにした。俺とマリンちゃん、アムロの3人で喪服を着て町外の丘へ向かう。  ソフィアちゃんの葬儀は親族のみで済ませたらしい。家から少し離れたところに、お墓が設置されていた。町を見下ろせる、見晴らしのいい場所。彼女がよく眺めていた景色だった。  (ソフィア・ヴァスコンティ ここに眠る)  持ってきた花束をお墓に供えて、3人で追悼した。そこには彼女が使っていたであろう、油絵用の筆が置いてあった。  そこへ、アレサンドロさんがやって来た。 「アレサンドロ様。この度は、心からお悔やみ申し上げます」 「みなさん、今日はお忙しいところ、わざわざ来て頂いてありがとうごさいます。彼女も喜んでいるでしょう」 「いえ。最期を看取ることが出来ず、残念です」 「ソフィアは最後まで絵画を続けていました。この絵を完成させて……旅立ちました」  アレサンドロさんから、一枚の絵を渡される。両手いっぱいになるほどの、大きな油絵だった。 「これは……」 「彼女が描いた、最期の力作です」  その絵には、バーベキューに来たメンバーが全員いた。黒い作業着の俺をセンターに、みんなが溢れんばかりの笑顔で並ぶその様は、楽しそうな修学旅行の集合写真を思わせるかのように描かれていた。  思わず涙がこぼれ落ちる。マリンちゃんとアムロも涙し、言葉が出ない。 「……どうしてもこれを、みなさんにお渡ししたくて」 「どんな画家にも描けない……最高の絵だと思います」 「僕もそう思うよ。彼女はこの家に住んでいて、本当に幸せそうだった。一緒のベッドで天窓に映る星空を見ながら、毎日……将来の話をした」 「……」 「病気が治ったら……みんなと旅行に行きたいねとか……子供ができた時の名前を……考えたりしていたんだ」  子宮頸がんとわかっていて、子供の話をする気持ち。きっと辛かったはずなのに。 「僕も、彼女とこの家で暮らせて……幸せだったよ。ケンシロウさん……ありがとう。大したお礼も出来ずに、申し訳ない」 「いや、この絵とその気持ちだけで十分ですよ。……十分過ぎる」 「ケンシロウさん。実はお義理父様が、君に会いたいらしいんだ」 「ユーゼフ卿が?」 「うん、自宅にいるはずだよ」 「わかりました」  俺達はアレサンドロさんと別れ、ユーゼフさんの元へ向かった。 「私達は外で待ってるね」 「は? なんで?」 「こういうのは、ゾロゾロ行かない方がいいと思うの」 「そ、そうか」 「ほーら。待たせちゃ悪いよ」  門扉の呼び鈴を鳴らすと、使用人のモブエさんが出迎えに来る。 「ケンシロウ様ですね? お待ちしておりました。どうぞ中へお入り下さい」 「はい」  モブエさんの案内で、ユーゼフさんの部屋の前へ。 「ユーゼフ様。ケンシロウ様がお見えになりました」 「入ってもらってくれ」  部屋の中に入ると、ユーゼフさんがソファに腰掛けていた。顔色は、やつれてあまり良くなさそうだ。 「やぁ、すまないな。君達が来ると聞いて、こちらから出向きたかったのだが、今腰を痛めてしまっていてね」 「いいんですよ。この度は思いがけない知らせに驚きました。突然のことで、なんと申し上げたら良いか……言葉がありません」 「親よりも先に逝ってしまったからね。……ああ、すまない。そこに座ってくれ」 「失礼します」  ユーゼフさんの向かいに腰を下ろす。 「ソフィアは、あの身体で良く頑張ったと思う。大好きな油絵が描けたから、命が伸びたんではないだろうかと感じるよ」 「彼女の描いた絵を、先程アレサンドロ様から頂きました。とても……素晴らしいものでした」 「私もその絵を見たよ……。君達には本当に感謝しきれない。娘の分も含めて、お礼をさせて欲しい」 「お礼……ですか」 「君は何か望みはないのかね? 私が出来る範囲でなら叶えよう」 「望みと言われましても……んー難しいですね」 「何でも良い。金でも土地でも、好きなものを与えよう」  な、悩む。いきなりそんなこと言われてもなぁ。あれしかねぇよ。 「ユーゼフ卿なら、この町の税金を操作出来るはずです。それの引き下げをお願いしたい」 「なに? なぜそんなことをする?」 「あの家は、私1人で建てた家ではございません。ハヤミ建設のみんなで造った家です。また、その資金は町のみんなから集めたお金なんです。私だけ恩恵を受けるのは……筋ではございません」 「……そういうことか。君は、本当に律儀な男なんだな」 「今は亡き私の師匠なら、同じことを言うはずです」 「師匠か。いい人だったんだろうな」 「はい。実の親よりも、親みたいな存在でした」 「……わかった。この町の税金を出来る限り下げよう。役所に通達を出しておく」 「ありがとうございます」 「落ち着いたら、みんなを連れてアレサンドロのところへ遊びに行ってやってくれ。寂しいだろうからな」 「もちろん……喜んで」  館を出て、待っていたアムロ達と合流した。 「ユーゼフ卿、様子どうでした?」 「なんか腰痛めてたな。まぁ元気は……なかったよ」 「どんな話したんですか?」 「ん? ハヤミ建設のみんなへ、娘のために色々とありがとうって伝えてくれってよ」 「それだけですか?」 「ああ。なんだよ?」 「なんかお礼でも貰えるのかと思ってました」 「てめぇ欲張んなや。お礼の言葉だけで十分なんだよ!」  アムロにヘッドロックする俺。 「ちょ、死にます!」  マリンちゃんが……そんな俺を見つめていた。 ◆
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