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カールが人間に戻って1日経った。
いよいよドラゴンリバー王国へ続く山が目と鼻の先だ。
ドラゴンリバー王国は、竜族の治める地だ。竜族=王族だが存在するのは女王と王の2人だけだ。因みにその2人は夫婦でなく姉弟であるそう。残りは普通の人間。高い山に囲まれた平地に存在するため、自然の要塞が彼らを守っている。
竜族は生来、魔力を持っている。更に長寿。平均寿命が500歳近いので、神のような存在だ。本来は竜、すなわちドラゴンの姿だが、人間の姿になることもできる。漆黒の身体は頭の先から尾の先までが3メートルくらいで、翼を広げた端から端までは8メートルくらいある。愛情深いが執念深い、それが彼らの性質だそうだ。
国境が近づくにつれ、兵士とすれ違うことが多くなる。やはり、ムーンライト王国を警戒しているらしい。ムーンライトは火が趣味の魔女ミラベルが治める国で、いつ攻め込んでくるか分からないのだから当然だろう。
「オリバー、」
「ああ」
カールがまた兵士を見つけたようだ。
すぐさま道を逸れ、脇の草むらに突っ込む。すかさず伸びてきた逞しい手にがっしりと二の腕を掴まれ、顔が硬い胸板に押しつけられた。背中はきっと土まみれ。うう、まただ。カールめ、息ができないと何度訴えたら分かるのだろう。かばってくれているのは有難いが潰れそうだ。
いくら筋肉好きな私でも死ぬ時は死ぬ。
「……行ったようだね」
ウィリアムの声がする。カールの腕の力が緩み、ようやく解放された。
「カール兄、」
私が文句ありげに見上げると、カールの耳が赤く染まった。カールは感情を顔にこそ出さないが、耳に出るらしい。何か恥ずかしくて赤くなっているのだろうかと思いながら起き上がる。
うわ、登ってこないでおくれよ蟻さん。
服に付いた虫やら土やらを払っていると、カールが謝ってきた。これで5回目くらいだ。
「申し訳ありません、つい反射で」
言い訳も全く同じだ。青色の目を見つめ返すと、みるみるうちに赤くなる彼の耳。
こんなに分かりやすくて、大魔女ミラベルを倒せるのだろうか。少し心もとないが、心配しても仕方がないだろう。きっと、これから登場するはずのあの人が何とかしてくれるはず……淡い期待を抱いて、私は立ち上がった。
「ほら、帽子が落ちていたよ」
ウィリアムは相変わらずのお母さん対応だ。帽子を被せてもらいつつ、にこにこ笑顔のハンサムボーイを見つめる。うーん、何か引っかかるな。
「さあ行こうか、オリバー。カールも」
「はい」
カールが返事をして、こちらを振り向く。私の反応を伺っているらしい。オオカミの時と全然変わっていない。どこかでちゃんと話をしなくては、と思う。彼は私の「犬」ではないのだと、明確に伝えなくてはならない。
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