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山の麓の村で昼食をとる。
フィッシュアンドチップスを頬張る私の前でカールがハンチング帽を脱ぎ、汗を拭いた。銀色の髪が白昼に晒された、その時だった。
「あんたたち、サンライト民かい?」
店の奥さんが話しかけてきた。
カールが「しまった」という顔をして黙っていると、ウィリアムが助け船を出す。
「奥さんと同じですよ」
優しく微笑むウィリアム。奥さんはすぐ釘付けになった。因みにウィリアムは帽子を被ったままなので、その黒髪は目立たない。
「そうかい、城の方から来たんだろう? 大変だったね。あっちの方は差別が酷くなってるって聞いたよ。ムーンライトの輩は悪魔だからね」
奥さんの表情は途端に険しくなった。
「銀色の髪っていうだけで、奴隷みたいに使われるだろう? あたしもそれで、こうやって隠しているんだよ。あんたたちみたいにね」
そう言ってモブキャップを外す奥さん。暗めの灰色の髪の毛が覗いた。すぐにもとに戻すと、声を潜めて話を続ける。
「悪いことは言わない。城の方へ戻るんじゃなくて、ここの辺りに留まるか、ドラゴンリバーに行くといいよ。ムーンライトの力が及ばないし、ドラコー様が守ってくださるからね」
「ドラコー様、」
聞き覚えのある名前を思わず反復すると、奥さんが私の方を見る。神妙な顔で頷いて、詳しく説明してくれた。
「今の王様は50年前に即位されたグラキエース・ドラコー様。帰るところをなくしたサンライト民たちを保護してくれているんだよ。ムーンライトを討つために騎士団の人数を増やしてもいる。あんたたちもそれを知ってて来たんじゃないのかい?」
ドラゴンリバー王、グラキエース・ドラコー。
彼も物語の重要人物だ。
何とかして会い、力を貸してもらいたいものだ。
私は奥さんに向かって頷きつつ、ウィリアムとカールに目配せした。
「あんたたちみたいな若い子を見ると、どうしても助けたくなっちまうね。あたしにも息子がいたからさ……10年前の戦争で死んじまったけど」
私たちが店を出るとき、奥さんは寂しそうに言った。
「どうか……幸せに生きておくれ」
「ありがとう、奥さん」
私が言うと、奥さんがポンポンと頭を撫でてくれた。
どうやら私、3兄弟の末の弟オリバーは相当幼く見えるらしい。やたらでかい兄貴2人に連れられて、私は再び歩き出した。
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