第5話 こんにちは氷の竜王様

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 扉を抜けると、そこは雪国だった。  というより、氷国。  うん、寒い。  床が凍って滑りそうだし、天井から氷柱(つらら)。  心なしか吹雪(ふぶ)いている。 「グラキエース様、お連れしました」  将軍が身を震わせつつ呼びかけると、広間の奥から声が返ってきた。 「『女王ミラベルに対抗できる唯一の存在』で、間違いないか」  鏡の声と同じだ。  少し低くて、よく通る声。  太い氷柱を2本打ち合わせたような、透明な声だ。  将軍が「はい」と返すと、その声はまた言った。 「少年を通し、貴方は下がりなさい」  将軍は私に目配せして下がっていった。扉が閉まると、部屋の温度が10度くらい一気に下がった気がする。  このままじゃ凍死するかも。 「貴方は死なない」  いや、死ぬって。  アメリカでは年間約600人が低体温症で死亡してるんだよ。最初は震えだけだけど、錯乱状態になってその後は意識不明だよ。 「……あめりか?」 「はっ?!」  心を読まれている。私は部屋の奥を睨み付けた。 「私の部屋で隠し事をしようと思うな」  くそ……吹雪で何も見えない。 「魔力で止めたら良かろう」  魔力なんていらない。私は筋力を信じている。 「……何なんだ貴方は」  勝手に頭の中を読んで突っ込まないでいただきたい。 「……」  声が返ってこなくなった。  全く、姿を見せずに頭の中を覗くなんて無礼にも程がある。  これがグラキエース・ドラコーなのか。  もっと格好いいと思ってたのに残念だ。  原作の描写では  ――雪男のような長身、分厚い胸板。    その身体は鋼のように硬く、氷のように冷たく。    その面差しは雪女のように美麗。    薄青に光る銀の髪と目、色のない頬。    冴え渡る思考、冷え冷えと冷徹な表情。    しかしその心は慈悲に溢れている。    偉大なるかな、美しき氷のドラゴン。    ひとたび翼を広げれば、その姿神の如し。  というくらいに褒めちぎられていたのに。  見たかったなぁ、分厚い胸板。
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