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扉を抜けると、そこは雪国だった。
というより、氷国。
うん、寒い。
床が凍って滑りそうだし、天井から氷柱。
心なしか吹雪いている。
「グラキエース様、お連れしました」
将軍が身を震わせつつ呼びかけると、広間の奥から声が返ってきた。
「『女王ミラベルに対抗できる唯一の存在』で、間違いないか」
鏡の声と同じだ。
少し低くて、よく通る声。
太い氷柱を2本打ち合わせたような、透明な声だ。
将軍が「はい」と返すと、その声はまた言った。
「少年を通し、貴方は下がりなさい」
将軍は私に目配せして下がっていった。扉が閉まると、部屋の温度が10度くらい一気に下がった気がする。
このままじゃ凍死するかも。
「貴方は死なない」
いや、死ぬって。
アメリカでは年間約600人が低体温症で死亡してるんだよ。最初は震えだけだけど、錯乱状態になってその後は意識不明だよ。
「……あめりか?」
「はっ?!」
心を読まれている。私は部屋の奥を睨み付けた。
「私の部屋で隠し事をしようと思うな」
くそ……吹雪で何も見えない。
「魔力で止めたら良かろう」
魔力なんていらない。私は筋力を信じている。
「……何なんだ貴方は」
勝手に頭の中を読んで突っ込まないでいただきたい。
「……」
声が返ってこなくなった。
全く、姿を見せずに頭の中を覗くなんて無礼にも程がある。
これがグラキエース・ドラコーなのか。
もっと格好いいと思ってたのに残念だ。
原作の描写では
――雪男のような長身、分厚い胸板。
その身体は鋼のように硬く、氷のように冷たく。
その面差しは雪女のように美麗。
薄青に光る銀の髪と目、色のない頬。
冴え渡る思考、冷え冷えと冷徹な表情。
しかしその心は慈悲に溢れている。
偉大なるかな、美しき氷のドラゴン。
ひとたび翼を広げれば、その姿神の如し。
というくらいに褒めちぎられていたのに。
見たかったなぁ、分厚い胸板。
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