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「……その髪、その目……!」
グラ様は蒼白な顔をもっと青くして震えている。
おかしいな、室温はさっきよりずっと上がっているはずなのに寒いのだろうか。私は首を傾げつつ気づいた。落ちたハンチングを拾おうと屈んだその瞬間、グラ様がものすごい速さでそれを奪い去る。そしてハンチングを掴んだ手をわざと頭の上まで高く持って行き、ちっこい私が届かないようにして睨んできた。
「ミラベルに瓜二つ……」
「意地が悪いな国王よ。小さいものを苛めて楽しいか」
ぴょんぴょん跳びはねてみたが届かないので、諦めることにした。少年の髪が実は長かったところで大して問題はなかろう。ムーンライトの人間だとバレたのが問題だ。確かにミラベルにそっくりなのも問題だ。他人の空似で許してもらえないだろうか。
「駄目だ」
「そういうのを意地悪っていうんだぞ」
私は目をギラつかせ口を尖らせる。
ちょっと勢い余って魔力を使いそうになってしまったので、怒りを静めるためグラ様から遠ざかる。だだっ広い書斎風の部屋の端まで行き、棚の本を見て回ることにする。
「まだ話は終わっていない」
グラ様がねちねち言いながらついてきた。
「正直に言おう。私は貴方が信頼できない」
「私もだ。勝手に頭の中を覗くような破廉恥な輩を信じることができようか、いやできない」
「……」
反語で言い返したらグラ様は黙った。
私は壁の本を眺めていたが、余りにも沈黙が長いので振り返る。すると信じられないことに、グラ様はがっつり私の髪の束を掴み、食い入るように見つめていたのだ。
「……髪の毛痴漢という言葉を聞いたことがあるか国王」
私は口の端を引きつらせて言うが、グラ様が止める気配はない。というより、何も聞いていないような感じだ。考古学者が長年探し続けてきた珍しい恐竜の足跡を偶然参加した見学ツアーで国会議事堂の床に見つけてしまったような顔をしている。
「……ちょっ、何しとるんだ貴様」
次の瞬間、思わず身体が硬直してしまった。予想外の展開過ぎて筋力も魔力も発動の機会を逃す。原作ではトップ・オブ・クールガイのはずのグラキエース・ドラコーが。
初対面の人間の髪の毛を嗅ぐなんて。
「……」
しかし本人は沈黙を続けている。
あの、せめて何か言ってくれませんかね。
やっぱり身体洗う頻度が2日に1度だったから?
臭いって?
いやだったらわざわざ鼻近づけて嗅ぐんじゃないよ兄貴。
もうやめて誰か止めてこの人。
発狂して魔力を発動しそうになったその時、ようやくグラ様は口を開いた。
「肩の辺りまで髪を切りなさい。切った髪は私がいただく。その条件を呑むなら、貴方を信頼して協力しても良い」
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