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「そんなことで信じてくれるのか?」
「ああ」
「良いだろう、髪くらいいくらでもくれてやる」
「肩の辺りまでで良い」
グラ様が髪を持ったまま言うので、私はぞっとしながらも頷いた。国王は密かに地球上のあらゆる人種の髪の毛をコレクションしているのだろうか。そして毎晩こそっと眺めて、世界を征服したつもりになってほくそ笑んでいるのじゃなかろうか。
「貴方は本当に騒がしい人だ」
グラ様は屈んでいた上半身を起こすと、指先で宙に鳥の絵を描いた。描かれた氷の鳥は命を得たように翼をはためかせ、扉へと一直線に吸い込まれていく。すぐに外から扉を叩く音がし、執事の格好をした白髪頭のお爺さんが入って来た。
「……おや、」
執事のお爺さんは部屋の中を見回して驚いた顔をし、何故かすぐに目を輝かせる。それから部屋の右奥の壁に張り付いている私と、その後ろで私の髪を掴んでいるヤクザな国王をみとめて足早に近寄ってきた。
「陛下、ついに陛下の魔力に敵うお相手を見つけられたのですね」
「ああ」
グラ様は無表情に同意した後、もう一度私を見た。
「髪をくれてやると言ったな?」
その念を押すような物言いに少し不安を覚えたので、こちらの条件も確認しておくことにする。
「私を信頼し、サンライト王国復興に協力するという条件を忘れるな」
「ああ」
グラ様が言った途端、背後で突風が起きた。
美容院いらないよね。
一瞬の早業で短くなった私の髪。執事のお爺さんがにこにこしながら捧げ持つ銀のお盆には、切られた分の髪が載っていた。こんなに長かったんだなあ、私の髪。感慨深くなったその瞬間、ウィリアムの言葉が脳裏を掠めた。
――「髪の毛は絶対に切らないでね、オリビア」
気づいた時には、もう遅かった。
まったく、ツメが甘いんだ私は。
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