第6話 髪の毛交換って何

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第6話 髪の毛交換って何

 その後、2日間城に軟禁された。  ムーンライトにいた時みたいに地下牢に繋がれなかっただけ感謝せねばならないだろうが、不自由で辛かった。暇すぎて暇すぎて、室内でできる筋トレも一通り終えてしまったので、執事のお爺さんに頼み込んで廊下をランニングさせてもらっていたほどだ。  軟禁場所は、グラ様の書斎の隣の部屋。せめて書斎みたいに本を置いておいてくれれば暇つぶしになるのに、本は一切読ませてもらえなかった。これは執事のお爺さんに頼んでも駄目。  あ、因みに執事のお爺さんの名前はコン・シリアートル。  コンさんって呼ぶことにした。    廊下を疾走する私を優しく見つめるコンさんは、時々水の入ったコップを持ってきてくれた。運動する私を思ってか、水だけでなく動きやすいシャツやズボンも供給してくれた。「少年」だと認識してくれているので、下着やなんやらも含め全部男物だ。  軟禁2日目の昼下がり、廊下で走る私に水を恵んでくれたコンさんは言った。 「オリバー様、貴方様は陛下の救世主なのですよ」 「……どういうことか全く分からないのだが」 「貴方様のおかげで、陛下は安心して部屋の外に出られるようになったのです」 「国王は引きこもりだったのか」  コンさんは微笑んだまま、鼻の上の丸眼鏡の角度をちょっと直して頷いた。 「ええ。陛下の水魔力は……荒ぶれば世界全土を水の底に沈めるほど強力でございます。もともと神経質でいらっしゃったのに加え、近頃は女王陛下の件もあり……どなたにも心を許せず、悲しみと孤独で魔力も凍り……特別な抑制効果のある書斎の外に出られますと辺りは氷に閉ざされ、世界は寒冷期となり……、」  想像して私はぞっとした。グラ様、さすがは氷のドラゴン。 「それで……書斎に閉じこもっていたと」 「ええ」 「それと私に何の関係が?」  私はコップの水を飲み干してコンさんに返しながら訊いた。コンさんはお盆の上にコップを回収し、その温かな茶色の目で私を見つめる。 「詳しくは存じませんが……貴方様は恐らくクウェイモ(鱗持ち)。それも火の魔力を持っていらっしゃるお方ございます。水と火は相反する存在であり、同等ならば互いの力を相殺することができる。魔力は精神の力によって強弱が決まるそうですが、貴方様はお若いのに陛下に対抗できるほどの精神力をお持ち――つまり、陛下に対抗できる魔力をお持ちなのです」 「……それで、なぜ国王は外出できるようになったのだ? 私の存在が必要なら、私が同行しないと世界に寒冷期が訪れるのでは……? 魔力は毛穴から漏れ出るものだろう」  言いながら、私は気づいた。  それでは、私も不味いではないか。  火の魔力を顕現させたのが一昨日。ミラベルは黒いドレスや真っ黒な部屋――特殊な加工を施した抑制部屋で過ごしていたから爆発は起きなかったが、今の私には何もないではないか。さっきまでも廊下を疾走していたがカーテンは燃えていないし爆発も起きていない。  なぜ、魔力が漏れていない?
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