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「……原作の、描写……?」
あ、また声が返ってきた。
そうだ、もう頭の中で呼びかけることにしよう。
無礼な輩だっていうことはよく分かった。
「……これは失礼」
何だか溜息の出そうな声が返ってきて、奥の方に連なっていた氷がパンパンと弾けた。障害物のなくなった氷の道に、銀色の光が現れる。天井から垂れているとおもった氷柱は所々が銀糸で織られたカーテン。いや、氷柱にカーテンが巻き込まれているだけか。それを指で退けるようにして、やはり銀色の人が私の正面に出て来た。
「私はグラキエース・ドラコー。この国の王だ。貴方の名は」
グラキエース様。長いのでグラ様ということにしておこう。
描写通りの出で立ちだろうが、分厚い毛皮のコートを着ていて身体の線が分からない。マントのようになっている真っ黒なコートは、その長身の首から下を全て覆っていた。銀色の長い髪がコートの上を流れ落ち、床まで届いている。その双眼の水晶は白色光を分散させ、瞳の空に綺麗な虹をつくっていた。
☆蓮華 空さま https://estar.jp/novels/25919718/viewer?page=26
「オリバー・ハンター」
私はようやく口を使って答えることができた。
カールでも十分大きかったのに、グラ様は彼より更に頭1つ分でかい。私は巨人を見上げながら続けた。
「要件はたった1つ。会わせたい人がいる。彼は今はなきサンライト王国の王族の血を引く者だ。彼の後ろ盾となってサンライト王国復興に力を貸してほしい」
私の言葉が進むにつれ、グラ様の眉間には深い皺が刻まれていく。表情のない人が眉間に皺を寄せるとどれだけ恐くなるか、本人は分かっているのだろうか。
「貴方が『女王ミラベルに対抗できる唯一の存在』ではないのか」
「私ではない」
「貴方が連れ立ってきた2人はクウェイモではない。クウェイモは貴方だけだ。私は最初から貴方が『女王ミラベルに対抗できる唯一の存在』であるとばかり……」
みるみるうちにグラ様の周りの温度が下がっていく。
不味い。本格的にあの世逝きが近い。
歯がガチガチ言い始めた。
寒い。
だんだん意識も怪しくなってきた。
グラ様は何て言ったっけ?
――クウェイモ。
ああそうだ、鱗持ち。
ドラゴンの鱗を持つ者。つまり、魔力を持つ者。
この世界では、魔力を持つのはドラゴンだけ。
その鱗を飲んだ者が、魔力持ちとなる。
ミラベルもその1人だ。
ただの人間でも、鱗さえ呑めば魔法使いになれる。
私は――?
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