壱 かむくらの社

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その時のことを思い出しているのだろう、目を弓なりにして優しい表情を浮かべた禄輪さん。 嘘をついている人の顔とは思えなくて、その言葉は真実なのだろうと思った。 何よりこんな優しい顔をする人が、お父さんとお母さんの友達が、嘘をつくとは思えなかった。 「お父さんとお母さん達は何の仕事をしてたんですか……?」 「巫寿は、暗闇の中に怖いものを見た事があるか」 え、と言葉を詰まらせた。 「暗闇から目玉がこちらを向いている気がしたり、誰かに跡をつけられていたり、昨日のように何かに襲われたことがあるか」 ばくん、と心臓がうるさい。 「でも、それは……。お兄ちゃんは、気のせいだって」 「少なくともその首の痣は、気のせいではない。だろう?」 そっと首に触れて鈍い痛みを感じる。 じゃあ、もしも暗闇に気配を感じた何かが本当なのだとしたら、昨日私を襲ったものが現実に存在するものだとしたら、あれは一体何なの? 「昨日のあれは魑魅という妖だ。怨念や悔恨が集まってひとつの形になった、凶悪で非常に厄介な妖なんだ」 「あや、かし」 言葉を頭が理解するまでに時間がかかった。 だってそんなもの、アニメや小説の中だけの架空の存在だと思っていた。 暗闇が怖かったのは私が敏感な子供だったからで、本当にその先に化け物がいたなんて信じ難い話だ。 でも、禄輪さんの言う通りこの首にある痣は現実で、昨日のあれは確かに存在したのだと証明する。
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