■Case 1:トアの場合

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「片思い。相手に通じない思いや恋のこと?」  城の書斎で急に背後から声が聞こえ、振り返るとトアは驚きの声をあげた。持っていた辞書をばたっと閉じ、後ずさる。 「…!は、母上!いつからそこに!?」 「今来たところよ。珍しくあなたが書斎にいるものだから、何をしているのかと思って」  トアの母親、リジーはにやにやとした表情で娘を見た。  この続きを察したトアはリジーの口を両手で覆おうとしたが、そこは母親が一枚上手だった。ぱしっと両手をとられ、リジーの頬に持っていかれる。目の前の母親はにっこりと微笑んだ。 「言葉の意味を調べたくなるくらい、片思いで悩んでいるの?」 「…いいじゃないですか、なんだって」  すぐにでもこの場から離れたかったが、両手をとられたままでどうしようもなく、トアはリジーから視線を逸らせた。 「(みやび)でしょ?かっこいいわよね~、彼」  母親とは良好な関係を築けているが、好きな人の話はしたことがなかった。  理由は明確。  からかわれるのが分かりきっているからだ。  トアは17歳だ。母親に隠したいことだってあるし、茶化されるのは好きではない。  しかしトアが誰に想いを寄せているかは筒抜けのようだった。  雅は西の大国『幻悠(げんゆう)』の王子である。子どものころから親交がある、いわゆる幼馴染だ。
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