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「片思い。相手に通じない思いや恋のこと?」
城の書斎で急に背後から声が聞こえ、振り返るとトアは驚きの声をあげた。持っていた辞書をばたっと閉じ、後ずさる。
「…!は、母上!いつからそこに!?」
「今来たところよ。珍しくあなたが書斎にいるものだから、何をしているのかと思って」
トアの母親、リジーはにやにやとした表情で娘を見た。
この続きを察したトアはリジーの口を両手で覆おうとしたが、そこは母親が一枚上手だった。ぱしっと両手をとられ、リジーの頬に持っていかれる。目の前の母親はにっこりと微笑んだ。
「言葉の意味を調べたくなるくらい、片思いで悩んでいるの?」
「…いいじゃないですか、なんだって」
すぐにでもこの場から離れたかったが、両手をとられたままでどうしようもなく、トアはリジーから視線を逸らせた。
「雅でしょ?かっこいいわよね~、彼」
母親とは良好な関係を築けているが、好きな人の話はしたことがなかった。
理由は明確。
からかわれるのが分かりきっているからだ。
トアは17歳だ。母親に隠したいことだってあるし、茶化されるのは好きではない。
しかしトアが誰に想いを寄せているかは筒抜けのようだった。
雅は西の大国『幻悠』の王子である。子どものころから親交がある、いわゆる幼馴染だ。
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