■Case 1:トアの場合

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 ここは世界の北東に位置する国、白海(はくみ)。首都サンフィリスの北にそびえる白海城(はくみじょう)では、今日も朝から使用人たちがせわしなく働いている。そこに王の一人娘であるトアが紛れ、同じくらいせわしなく自分の召使いを探していた。  ウェーブしたプラチナホワイトのショートボブはセットしたばかりだというのに走り回るうちに乱れ、しっかりと化粧を施した顔は暑さで紅潮したために頬がより赤みを増して見える。  彼女の名前トアというのは愛称で、正しくはトーランスという名前だ。しかし国民を含め、トアという呼び方は広く浸透していた。 「あっ、トア様!よかった、お探ししましたよ!」 「エリーシャ!」  ちょうど茶室から出てきた召使いのエリーシャは、主人であるトアに会えてほっとした。早くこの嬉しいニュースを届けなければと思い急いで探していたところだ。 「…その、雅から連絡があったって…」  トアは上がる息を整え、声のトーンを落として聞いた。  エリーシャはにっこりと笑い、彼女に合わせて少し小声になった。 「はい。雅様が、ご相談したいことがあるらしく、週末に時間が取れないかお聞きでした」  雅からトアに相談があるなど、滅多にないことだ。彼は基本的に自立しているし、相談相手にはまずは彼自身の家族や側近が挙げられるだろう。そう考えるとトアに相談事というのはよっぽどのことだ。 「それで、こっちから連絡するって伝えた?」 「いいえ、僭越ながらトア様のスケジュールを確認し、10時のお約束をしておきました」 「エリー!よくやったわ!」  トアはエリーシャに抱きついた。  普段から気が利く彼女には雅の話をよくしていた。21歳のエリーシャはトアにとって姉のような存在である。恋愛経験が豊富でトアの気持ちをよく理解してくれている。ミーハーなのが玉に瑕だが、気さくで愛嬌があり、センスの良い彼女は他の使用人たちの間でも人気だった。 「さぁトア様。週末に向けて準備をいたしましょう!」
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