一番大切なものは

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 最初はただの好奇心だった。  三年ほど一緒に暮らしている恋人が残業で夜遅く帰ってきて、バスルームに行った隙に、ちょっと、ほんとにちょっと、鞄の中身を見てしまったのだ。出来心という奴だ。  勿論、携帯チェックとかそんなことはしてないよ。ファスナーを開けて、鞄の口を広げて、中を覗いただけ。  でも、そんなこと、やめればよかった。  何故なら鞄の底に、プレゼントの箱が入っていたからだ。  紺色の包装紙に銀のリボン。趣味のいい包装紙は、財布やパスケース等で人気の高いクレドールの物だ。大きさからすると、きっと中身は財布だ。  クレドールの財布をプレゼントするなんて、ガチだ。  やっぱり裕介はモテるんだな。カッコいいもんな。  俺はそっとファスナーを閉めて、元あった通りに鞄を戻し、気付かれないようにベッドに潜り込んだ。  日曜日、一緒に映画を見に行った。  そんなのいつ以来だろうと考えて、去年のクリスマスに、カップルで混み合う町中を避けて、郊外のレストランで食事をしたのが最後だと気付いた。半年以上も経っている。  いいんだ、デートなんて。別に特別なことがしたいわけじゃないから。  だけど、一緒に暮らす意味あるのかな、って最近よく考える。  一日に一度も会話しない日なんてしょっちゅうだし、顔を見ない日だって同じだ。  裕介が忙しいのは知ってるから、メールも返事させるのが悪くて、送るのをやめた。まあ、レスっていっても、大抵は一行とか一言なんだけど。以前はそんなでも嬉しくて、眺めてたこともあったっけ。  映画館のロビーに並ぶ自動券売機の前に立って、二人で画面を覗き込む。 「なにが見たい?」 「裕介が見たい奴でいいよ」  俺はデザイナーという職業柄、ストーリーよりも映像重視だけど、それは裕介の好みではない。  自分の好みのものは一人でレイトショーででも見ればいいし、裕介が肩の力を抜いて気楽に見られるように、宇宙人が攻めてきて街が壊される系の映画を選択しようと思ったら、横からさっと指が伸びて、長いタイトルのフランス映画を押された。  写真家でもある、新進気鋭の女性監督の映画で、見たいと思っていたものだった。 「そんなの、寝ちゃうんじゃない?」 「んー」  俺が長身の裕介を見上げている間に、二枚とか、最後列のセンターとか、どんどんボタンを押して進んでいき、最後に料金を支払う段になった。  払おうとしたら制され、裕介が財布を取り出し、五千円札を一枚機械に投じたが、俺の眼は瞬時に奪われた。 「クレドールの財布……」  手にしていたのは真新しいオシャレな財布だった。数日前に見たプレゼントの箱が眼裏に甦る。 「お財布、替えたの?」 「ん? ……うん」  なんか、返事が変じゃなかった? 気のせいか?
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