黒羽様は上から目線

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 私は、しがない新入り劇団員だ。  看板イケメン俳優、通称『黒羽(くろば)様』が私に言う。 「おい、浅香(あさか)、荷物持て!」 「はい!」 「おい、浅香、飲み物買って来い!」 「はい!」 「おい、浅香、打ち上げ会場押さえとけ!」 「はい!」  口調がいつも上からで、パワハラ気味で。 「おい、浅香、休日くらいデートの予定は無いのか?」  そして少しセクハラ気味だ。  「そんなん、彼氏なんていませんよ!」  「は!?  恋愛してないのか!?  何事も経験だ。  経験無くして演じられるのか!?」   黒羽様が私に詰め寄って来た。 「さあ・・・どうでしょう・・・?」  この人は、多分私の事が嫌いだ。  気のせいか、時々悪意を感じる。  確かに、まだ何も出来なくてイライラするだろうし、役に立って無いのは自覚してるけど・・・。 「おい、浅香、本読み付き合え!」 「はい、分かりました!」  今回の脚本は恋愛色強めのストーリー。  でも、なぜか黒羽様の選ぶシーンのチョイスがエグい(!?)  いきなりの、  壁ドン!! 「何で他のヤツに優しくするんだよ!?」 「そ・・・そんな事ないから・・・(棒読み)」  顎クイ。 「だから・・・俺の事だけ見てろって・・・」 「な・・・何でそんな事言うの・・・(怯え)」  押し倒し。 「だから、俺の物になれよ!  今夜は、帰さないから・・・」 「そ・・・そんなのダメだから・・・(泣きそう)」  そのまま、黒羽様は、  強引に、私に、キスをした・・・!!  驚きのあまり、私は目を見開いたまま。  私は黒羽様を突き飛ばして、飛び起きた。  初めてのキスだった。  思いがけずに、こんなところで奪われて、無意識に涙が出て来た。 「何するんですか!?  こんなの、台本に無いじゃないですか!?」 「はあ?  だから、何事も経験だって言っただろ・・・」 「これは、セクハラ案件ですよ!?  その綺麗な顔でキスしたら、誰でも喜ぶと思ってるんですか!?  それとも、私の事が嫌いで、嫌がらせのつもりですか!?」  焦る私に、黒羽様は言った。 「お前、バカなの?  嫌いなヤツに嫌がらせでキスする男とか、どこにいるんだよ?」 「わ・・・、私には経験が無いので、男の人の事は、よく分かりません。  黒羽さんは、慣れてて何でも無い事かもしれないけど、ファーストキス、私には大切なものだったのに・・・。  こんなからかわれるみたいなの、嫌だったのに・・・」  ボロボロと涙が溢れて来た。  黒羽様が、なぜか私を抱き寄せ、髪を撫でた。 「何で、からかってるって・・・。  俺が本気じゃないって決めつける?  俺の見た目とか、イメージ?  それとも、誰かの噂話?  ホントのところは、自分で踏み込んで、確かめてみないと、分からないだろ?  俺が、お前を本気で口説いたら、ダメなわけ・・・?」    黒羽様は、私の顔を上向かせて、さっきより、優しく、甘く、キスをした。  なぜか、とろけるような・・・。  自分でも不思議だったけど。  拒否出来なかった・・・。  そうだ。  この先は、踏み込んでみないと分からない。  私には、知らない世界だった・・・。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加