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私は、しがない新入り劇団員だ。
看板イケメン俳優、通称『黒羽様』が私に言う。
「おい、浅香、荷物持て!」
「はい!」
「おい、浅香、飲み物買って来い!」
「はい!」
「おい、浅香、打ち上げ会場押さえとけ!」
「はい!」
口調がいつも上からで、パワハラ気味で。
「おい、浅香、休日くらいデートの予定は無いのか?」
そして少しセクハラ気味だ。
「そんなん、彼氏なんていませんよ!」
「は!?
恋愛してないのか!?
何事も経験だ。
経験無くして演じられるのか!?」
黒羽様が私に詰め寄って来た。
「さあ・・・どうでしょう・・・?」
この人は、多分私の事が嫌いだ。
気のせいか、時々悪意を感じる。
確かに、まだ何も出来なくてイライラするだろうし、役に立って無いのは自覚してるけど・・・。
「おい、浅香、本読み付き合え!」
「はい、分かりました!」
今回の脚本は恋愛色強めのストーリー。
でも、なぜか黒羽様の選ぶシーンのチョイスがエグい(!?)
いきなりの、
壁ドン!!
「何で他のヤツに優しくするんだよ!?」
「そ・・・そんな事ないから・・・(棒読み)」
顎クイ。
「だから・・・俺の事だけ見てろって・・・」
「な・・・何でそんな事言うの・・・(怯え)」
押し倒し。
「だから、俺の物になれよ!
今夜は、帰さないから・・・」
「そ・・・そんなのダメだから・・・(泣きそう)」
そのまま、黒羽様は、
強引に、私に、キスをした・・・!!
驚きのあまり、私は目を見開いたまま。
私は黒羽様を突き飛ばして、飛び起きた。
初めてのキスだった。
思いがけずに、こんなところで奪われて、無意識に涙が出て来た。
「何するんですか!?
こんなの、台本に無いじゃないですか!?」
「はあ?
だから、何事も経験だって言っただろ・・・」
「これは、セクハラ案件ですよ!?
その綺麗な顔でキスしたら、誰でも喜ぶと思ってるんですか!?
それとも、私の事が嫌いで、嫌がらせのつもりですか!?」
焦る私に、黒羽様は言った。
「お前、バカなの?
嫌いなヤツに嫌がらせでキスする男とか、どこにいるんだよ?」
「わ・・・、私には経験が無いので、男の人の事は、よく分かりません。
黒羽さんは、慣れてて何でも無い事かもしれないけど、ファーストキス、私には大切なものだったのに・・・。
こんなからかわれるみたいなの、嫌だったのに・・・」
ボロボロと涙が溢れて来た。
黒羽様が、なぜか私を抱き寄せ、髪を撫でた。
「何で、からかってるって・・・。
俺が本気じゃないって決めつける?
俺の見た目とか、イメージ?
それとも、誰かの噂話?
ホントのところは、自分で踏み込んで、確かめてみないと、分からないだろ?
俺が、お前を本気で口説いたら、ダメなわけ・・・?」
黒羽様は、私の顔を上向かせて、さっきより、優しく、甘く、キスをした。
なぜか、とろけるような・・・。
自分でも不思議だったけど。
拒否出来なかった・・・。
そうだ。
この先は、踏み込んでみないと分からない。
私には、知らない世界だった・・・。
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