Triangle-toma-

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僕の人生は概ね順調だった。 アルファの両親の元次男として生まれ、何不自由なく育ててもらった。 家は裕福で、両親は優しい。4つ年上の兄とも仲が良く、優秀な兄と比べられても引けを取らないくらい僕も優秀だった。それに次男ということもあって、兄よりももっと自由に何でもやらせてもらった。そのせいか僕は挫折を知らない。勉強も運動もそれなりに上手くこなした。友達にも恵まれた。そして恋愛も。 兄が第二性診断でアルファと診断され、僕も予想を裏切らずその4年後にアルファの診断を受ける。それまでもそれなりにモテていたが、アルファが確定するとさらにそれは加熱し、僕の生活は常に誰か恋人がいるようになった。 大抵は向こうから告白されて付き合う。でもしばらくすると何かが違うという思いに駆られ、僕の方からお別れを願い出る。するとまた違う誰かが告白してくれる。 そんなことを繰り返していても、僕の周りから人は居なくならず、まるで順番待ちのように次々と告白者は現れた。そのため僕は恋人を切らさず、初体験も中学のうちに済ませることが出来た。 そんな生活の中、僕は初めて恋に落ちた。 それは大学に入ってすぐの頃、僕はスマホをどこかに無くす失態を犯した。 ついさっきまで手に持っていたスマホ。それがないのに気がついて、僕は友人に借りたスマホから自分のスマホに電話をかけた。そこに出たのがその人だった。 男性にしては少し高めの、だけど女性にしては低いその声は、僕の耳には心地よく、ずっと聞いていたいような声だった。 その人は学食の出口付近のごみ箱の上でスマホを見つけ、いま学生課に届けようと思っていたという。 そうだ。 昼食を終えてゴミを捨てる時にそこに置いたのだ。 それを思い出し、いま取りに行くから場所を教えて欲しいと言った僕に、快く応じてくれたその人に僕は名前を尋ねた。もちろん、先に自分も名乗ってから。そして告げられたその人の名は『天月真琴(あまつきまこと)』。その名前を聞いても性別は分からなかった。分からないまま僕はその人のいる場所に向かい、その人の姿を探した。 言われた場所は学生課が入る本館近くの掲示板。そこに立っているというその人を探しながら、僕は掲示板に近づいていく。 最初に気づいたのは香りだった。 甘いいい香り。 今まで僕のそばには当然アルファもオメガもいた。彼らはみんな香りを纏っている。だから今まで色々な香りを感じてきたけど、その香りはそんな中でも一番僕の気を引いた。 どこから香っているのだろう・・・。 一瞬スマホの人を忘れて香りを辿ったその時、ある学生と目が合った。その人は掲示板の横に立ち、僕と目が合うとにっこり笑った。 その人は、人間とは思えないほど美しかった。 まるでCGで作った動画のキャラクターのように現実離れしたその容姿は、僕の心を瞬時に捉えた。 艶やかな真っ黒い髪と、やはり黒曜石のように黒い大きな瞳。それに象牙色の肌はしみひとつなく作り物のようだった。ほっそりとした体躯はけっして大きくないものの、その小さな顔と長い手足で背が高く見える。その姿は本当にCGのキャラクターそのものだった。 こんな人が現実に存在するなんて・・・。
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