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「オレ・・・当麻に酷いことしたよ?」
溢れ出る涙をそのままに、真琴が辛そうに目を伏せる。
この指輪を送り返したことを・・・送り返さなければならなかったことを言っているのだ。
僕はそんな真琴の涙を拭い、そのまま抱きしめる。
「真琴のせいじゃないだろ?あの後、運命の番について聞いたんだ。自分の意思ではどうにもならなかったことだよ。だから真琴は悪くない。それに過去はどうでもいいんだ。大切なのは今。真琴は今、僕を愛してるだろ?」
いまなら分かる。真琴は何も悪くない。
それに真琴があの時のことを悪いと言うのなら、それを鵜呑みにして2年も放置した挙句に関係ない人たちまで巻き込んで結婚しようとした僕の方がよっぽど悪い。
だから真琴は全然悪くないよ。
すると真琴は僕の胸に顔を埋めて何度も頷く。
「じゃあ、プロポーズを受けてくれる?」
その言葉にも頷く真琴に、僕は嬉しくて仕方がない。
「良かった。でも、いやだと言っても離してあげる気はなかったけどね」
もちろん、泣いて喚いて暴れても、僕はもう真琴を離さない。だって真琴の思いは僕にあるのだから。いくら嫌がってももう、僕は真琴を離すことなんてできない。
僕は小箱から指輪を取ると真琴の左手の薬指にはめた。けれど・・・。
「あれ?真琴の身体が細くなったと思ったけど、これ痩せすぎだよ」
指輪は関節も何も引っかかることなくゆるゆるのがばがば。
どんだけ痩せちゃったの?!
「最近悪阻であまり食べられなかったから・・・」
何気に視線を外しながらそういうけど・・・。
「いや、悪阻のせいじゃないよ。発情期の時もかなり痩せたって思ったもの。その時から更に痩せちゃったってことでしょ?」
悪阻の前には既に痩せすぎなくらい痩せてたのに気づいていた。
真琴は年のせいとか環境が変わったとかごにょごにょ言ってるけど、そんな理由じゃないよね?辛くてごはん食べられなかったんでしょ?
そう思ってじっと真琴を見つめると、真琴は言いにくそうにぼそっと言った。
「当麻がいなくて、寂しくて食欲がなかったんだ」
てっきり心が辛くて・・・と言うと思っていたので、予想外のその言葉に嬉しくなる。でも、理由はどうあれ、痩せるのはだめ。
「悪阻はまだ続くのに、今からそれじゃ身体を壊しちゃうよ。それにお腹の赤ちゃんにも悪いよね。だからこれからずっと、僕がそばにいるよ」
「え?」
「今日からここに一緒に住むから」
僕がそばで真琴の生活をちゃんと管理するから。
一人暮らしをしてから料理だってできるようになったし。
でもその言葉に真琴は目を点にする。
「今日から?」
「いや?」
実はもうここに住む気満々で、家の方は引越しの準備も出来てるんだけど・・・。やっぱり今日からすぐというわけにはいかないか・・・。
いつならいいかな?
来週?
来月?
また離れるの嫌だな・・・。
もう逃げないって分かってるけど、ずっとこうして腕の中にいて欲しい。
そう思っていると、真琴があわてて首を横に振った。
「当麻が大変になっちゃうよ」
大変?なにが?と思ったけど、真琴は僕の仕事を心配してくれているらしい。
確かに電車だと特急が止まらないから一つ行ってから特急に乗り換えて、そこからさらに乗り換えてからの会社だけど・・・。
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