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「拓真と一緒に車通勤にするから大丈夫だよ」
そう。実は拓真と話がついているのだ。
元々拓真はここから車通勤が許されているので、それに便乗する形にしたのだ。
「運転は交代でする話になってるし、却って今までよりも快適かもしれないよ」
僕の車と拓真の車で交互に通勤することになっているのだ。
すると真琴の顔が明るくなる。
「じゃあ、本当に今日から一緒にいられるの?」
あ、喜んでくれてる。
「もちろん。明日は会社を休みにしてるから、今日はここにずっといるよ。それで明日、一度向こうに戻って荷物を持ってくる。もう荷造りは出来てるから、あとは運ぶだけだし、真琴が寝ている間に行ってくるよ」
喜んでくれる真琴が嬉しい。
僕はぎゅっと真琴を抱きしめる。すると真琴が安心したようのその身を預けてくれる。
しばらくそうして真琴の香りと温もりを味わっていると、真琴の目がとろっとしてくる。
「眠い?寝てもいいよ」
瞼がもう半分くらい降りてきてる。なのに真琴は僕の言葉にぱっと目を開ける。その瞬間感じる真琴の不安。
ああ、目が覚めたら夢の中の出来事だと思って怖いんだ。
発情期のとき、そう言って拓真とすり変わったから・・・。
「大丈夫。起きても僕は消えないよ。このまま真琴を抱きしめててあげるから」
ごめんね。
きっとあの時も、目が覚めて僕がいなかったことで悲しませてしまったんだね。
だけどもう、僕は消えないよ。
僕はそっと真琴の頭を撫でてるあげる。
「大丈夫。安心しておやすみ」
そう言うと真琴は僕の目を見て微笑むと、静かに目を閉じた。
ずっとそばにいるよ。
安心したような寝息を立て始める真琴を見つめながら、僕はそう心に誓った。
そして次の日、真琴と一緒に朝を迎え、通勤する拓真の車に一緒に乗せてもらって自宅に戻った。
このまま会社に行っても良かったんだけど、もう欠勤届けは出してあったし、なるべく早く生活を整えて真琴との時間を取りたかった。なので今日は会社は休み、僕は引越しをする。
部屋は家具付きだったので、既にまとめてあった荷物を車に積み、不動産屋で退居の手続きをして再び真琴の元へ戻った。
そして喫茶店にいたマスターと初めてお会いする奥さんに挨拶をして、引越しはあっけなく終了。車は駐車場が見つかるまでマスターの家に置かせてもらうことになった。
びっくりしたのがマスター夫妻のこと。今日初めて、マスターご夫妻が拓真の祖父母だと知った。
今の今まで全然知らなかったので、分かりやすくご本人たちの前で驚いてしまった。そんな僕に真琴も驚いていた。
拓真のやつ、なんで教えてくれなかったんだ・・・?
そう思って早速メッセージで抗議したら、訊かれなかったからだって。そんなの訊かなくても教えて欲しい。
まあ、そんなこんなで僕と真琴は無事に届けも出して番になり、結婚もした。そして二人の新しい生活もスタートさせることが出来た。
一つ気にかかるとしたら、それは母のこと。
あれから母からは何も連絡がない。だから、あの時父が言ったように上手く話をつけてくれたのだろうけど、このままでいいのだろうか。
真琴とはあれからお互いに今まであったことを話し合い、僕も母とのやり取りを隠さず話していた。だからだろう。真琴も気になっていたようだ。
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