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「そうよ。麻弥ちゃんはいいお嬢さんだし、家もしっかりしているし、当麻を好きでいてくれてるわ」
「うん。いいお嬢さんだった」
「そうでしょ?」
「でも僕は真琴を愛してるんだ。真琴がいないと僕は生きていけない」
そう言ったところで、お茶を持った父と真琴が戻ってきた。そして真琴は僕の隣に膝をつき、母に頭を下げる。
「オレ・・・僕も当麻さんを愛してます。当麻さんなしでは生きていけません。どうか僕たちを許してください。必ず幸せにします。だからお願いします」
土下座とまでは行かないけど、床に膝をつけて頭を下げる真琴からは真剣な思いが伝わってくる。
僕はそんな真琴の肩を抱いてソファに座らせると、僕も頭を下げた。
「母さんにも認めてもらいたいんだ。僕たちのこと。だからお願いします」
隣でもソファに座り直した真琴が再び頭を下げた。すると頭上から盛大に鼻をかむ音が聞こえる。母だ。
母は何枚もティッシュをとっては涙を拭き、鼻をかみ、その隣では父が母の背中を摩っている。そしてようやく落ち着いた母が目と鼻を真っ赤にして口を開く。さすがというかなんというか、メイクは全く落ちていなかった。
「ママだって分かってるわよぉ。当麻が今とても幸せだって。これが正解だって分かってるわ。だけどママが選んだ人よりもいいって認めたくなかったのぉ」
そう言ってもう一度鼻をかむと、僕と真琴を見た。
「認めるわ。二人のことを。だから遠慮しないで、これからもちょいちょい帰ってらっしゃいね」
そう言う母の頭を隣で父が撫でている。どうやらよく出来ました、ということらしい。その時の父の柔らかい表情に、やっぱり夫婦なんだな、と関係ないことを思ってしまった。
それからはもう、いつもの家に戻った。
調子を取り戻した母の口はずっと動き、その隣では反対に喋らなくなった父。それに嫌な顔一つしないで付き合う真琴。
そうして無事に番と結婚、そして妊娠の報告ができた僕達は、実家を後にした。
せっかく真琴が久しぶりに東京に来たので、僕達は少しぶらつくことにした。
ちょうど桜の季節。キレイだと有名な公園にでも行ってみようと歩いていると、ふと隣の真琴の視線が横に流れていく。なんとはなしに僕も見ると、通りの向こうを歩くアルファ。アルファはその腕に2歳くらいの子供を抱え、隣には赤ちゃんを乗せたベビーカーを押すオメガ。真琴は一瞬その彼と視線を交わらせ、すぐに離した。それは本当に一瞬だった。そして二人は通りを挟んですれ違い、振り返ることも無く離れていく。
「幸せそうで良かった」
隣で真琴はそう呟き、嬉しそうに微笑んだ。そして僕の視線に気づいたのか、僕を見上げて笑う。
「オレもすごく幸せだよ」
真琴から笑顔と偽りのない思いが溢れてくる。
「僕も幸せだよ」
僕もそう言うと、真琴は本当に嬉しそうに笑った。
了
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