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1.プロローグ
天登の母は身体が弱いため、いつも彼に気兼ねしている。
「天登、気をつけていってらっしゃい。ごはんはお母さんが作れるから、無理に早く帰らなくていいんだよ」
「ありがとう母さん、無理なんかしてないから。でも今日はバイトだから、ちょっと遅くなるかも」
部屋のドアを閉め、寝巻き姿の母の残像に後ろ髪を引かれながら、天登はアパートの階段を降りる。
夏らしい真っ白な雲はすっかり姿を消し、溶き卵を落としたような霞がかった空。
秋が近い。
天登は胸いっぱいに朝の空気を吸い込み、学校へ向かって駆け出した。
「おはよう、天登!」
幼馴染のあかりだ。
「おはよう、あかり」
「今日もお母さん元気?」
「あぁ、調子良さそうだよ、ありがとう」
「そう、よかった。今年の夏も暑かったもんね」
「あぁ、秋もすぐそこだ。一息つけそうだ」
あかりはよく天登のアパートへ、手伝いに来てくれる。
家事なんてやる必要もない裕福な家庭ながら、料理も掃除もそつなくこなす。
素直で柔軟な性格こそ、優秀というのではないだろうか。
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