「雪の日に」

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「心配しなくても上げるよ。上げるのは、私じゃないけどね」  村川先輩がそう言って、台の上に置いた文庫を手に取ったのと同時、図書室の扉が開いた。先輩の言う通り、来客があったのにも驚いたが、それ以上に入って来た人物に驚いた。 「足立?」  マフラーから覗く頬はすっかりピンク色に染まって、首元の布との境目が曖昧になっていた。スカートについた雪に気づいたらしく、彼女は一度廊下に下がり雫を払ってからカウンターの前までやって来た。普段は自転車で通学しているらしいから、今日は歩いてきたのだろう。寒さをこらえているせいか、息遣いが少しだけ荒かった。 「用事があるからって村川先輩と代わって貰ったんじゃなかったのか?」 「……用事は今からだから」 「今からって、どういうこと?」 「もう、倉沢はにぶちんだね」  そう言って、村川先輩がカレンダーを指差す。 「どれだけ降り積もった雪に邪魔されようとも、今日でなくちゃいけない理由があるのよ」  足立の小さく白い手がスクールバックに伸びる。荷物は他に入っていないらしく、可愛い赤色のリボンが結ばれた半透明の袋がすっと出てきた。
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