「雪の日に」

5/12
前へ
/12ページ
次へ
 訝しげに村川先輩は窓の外を見遣った。白い絵の具で塗りつぶしてしまったような街は空の薄暗さに反比例して少しばかり明るい。 「でも、一人くらいは来るんじゃないかな」 「何を根拠に?」 「答えたくない」  大人びた表情で村川先輩は子ども地味たことを言い放つ。こちらが少しむっとしたのを面白がるように表情を明るくした。栞を挟み、丁寧な手付きで文庫を台の上に置く。 「それじゃ賭けてみる?」 「誰か来るかどうかをですか?」 「そうとも。こんな雪の日に図書室を訪れる人がいるかどうか」  「賭けるって何を?」 「うーん、倉沢が勝ったら好きな人を教えて貰おうかな」 「俺が勝ったらですか? 負けたらの間違いじゃ?」 「ううん、勝ったらであってる」 「……別にいないんですけど」 「本当かな?」 「本当ですよ。……まぁ暇ですし付き合います。俺が勝っても答えは『いません』ですけどね」 「それでいいよ。もし倉沢が負けたらお菓子をあげよう」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加