セルティスのバレンタインデー

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 バレンタインデー当日。  セルティスはソワソワしていた。チョコクッキーを作ったのは、良いけれど、ホークに渡すことができるのか。気にいってくれるだろうか。 「セルティス、ソワソワしすぎだって」 ミラトは、セルティスの様子を見て、可笑しくて仕方がなかった。 「今まで、こんなことしたことないし、本当に喜んでくれるかどうか、わからないだろ?」 セルティスは、明らかに動揺している。 「もう、しっかりしてよ! ホークが来たら、セルティスが渡すのよ。私は、姿消すからね」 「えっ? そうなのか?」 ミラトの言葉に、セルティスは驚愕した。 「当たり前よ。ここは、私がいたら邪魔になっちゃうでしょ。せっかくのバレンタインデーよ。デートでもしなよ」 ミラトが言ったとき、ホークの姿を見た。 「ほらっ、来たわよ、じゃあね。ちゃんと渡しなさいよ」 ミラトは、セルティスの背中を強く押した。 「えぇっ!?」 セルティスはよろめいてしまった。ところが、厚い胸板に頭がぶつかって、今度は、か弱い女の子のような声を出してしまった。 「きゃぁっ」 「大丈夫か?」 この声はホークだ。ホークは、セルティスをしっかりと抱きとめていた。 「ごめん……」 セルティスは、顔を真っ赤にして、素早くホークから離れた。 「何かあったのか?」 ホークは、明らかに冷静さを失っているセルティスを見て、心配そうに顔を覗き込んだ。 「えっ……いや……」 セルティス自身も困惑してしまった。どうすればいいのか、わからない。心を落ち着けようとしても、ドキドキが止まらない。顔も熱くなっている。 「顔が赤いけど……」 ホークは、セルティスの額に触れた。 「あっ……」 セルティスは余計に顔を真っ赤にした。 「熱はないみたいだな」 ホークは、じっと、セルティスを見ている。やっぱりセルティスらしくない。女の子らしいところを見せることもあるけれど、こんなに静かなセルティスは、セルティスではない。 「やっぱり、セルティス、何かあったのか?」 ホークは、セルティスのことが心配で、ジロジロと見ている。 「何もないって……」 セルティスは、ホークから目を反らす。ホークの目を見ることができない。チョコを渡すどころではない。  ミラトは陰で見ていて、呆れてしまった。セルティスは、躊躇してしまって、チョコを渡せていない。もどかしい気持ちになる。そんなに渡すのに 緊張するのかと考えてしまった。 「あぁ~、もぉ!!」 ミラトは、いてもたってもいられなくて、セルティスとホークの目の前に姿を現した。  「セルティス、なに、やってんのよ」 ミラトの声に、セルティスは振り返った。 「ミラト、どうしたんだ?」 セルティスは、呆然としている。 「もう、ホーク、ごめんね。セルティスが渡したいものがあるんだって。でもね、恥ずかしくて渡せないみたいだよ」 ミラトは、ズバッと言い放つ。 「なっ……」 セルティスは慌てて、ミラトの肩をつかもうとしたときだった。 「きゃっ」 大慌てで、ミラトのほうへ行こうとしたので、何もないところで、躓いてしまった。 「ったく、ドジだな。セルティスは。でも、セルティスのそういうところも可愛いけどな」 ホークにまたしても抱きとめられた。そして、サラッと可愛いと言った。よく、サラッと言えるなと思いながら、でも、なんだか嬉しかった。 「ちょっと、付き合えよ」 ホークは、ニッと笑って、セルティスの手を握った。 「えっ?」  連れられた場所は、海だ。波の音が心を落ち着かせてくれる。 「なんか、明らかに動揺してたから、ちょっと落ち着かせろよ」 ホークはそう言うと、波の音を静かに聞いていた。ホークは波の音が好きだ。心が落ち着いて、頭をクリアにできる。 「俺、好きなんだ、波の音を聞くのが。心地がいい」 ホークは丸太を見つけて、セルティスを誘って、セルティスと一緒に丸太に座った。 「波の音、あたしも好き」 セルティスは、ホークの肩に頭を預けた。 「セルティス……?」 「海、綺麗だね。青く透き通ってる」 セルティスは、ホークの肩に頭を預けたまま、海を眺めた。 「そうだな」 ホークは、セルティスをそっと抱き寄せた。 「ありがとう、やっぱり、こうしているとホッとする」 セルティスは、笑みをこぼした。そこで、やっと、思い出した。手作りチョコのことを。 「あっ……そういえば、ホーク、これ、あげる。いつも、助けてくれるお礼。今日、バレンタインデーだからさ」 綺麗にミニ紙袋に入れて、リボンで飾られている。 「俺に? ありがとう。セルティス」 チョコを受け取ったホークは、セルティスに開けていいのか、確認する。 「開けていいか?」 「いいよ」 セルティスは、ちょっと恥ずかしそうに答えた。ホークがミニ紙袋を開けると、星型とハート型のチョコクッキーがある。 「チョコクッキーか。セルティスが作ったのか?」 ホークは、嬉しそうだった。 「うん」 「味見しよ」 ホークは、チョコクッキーを食べる。 「おぉ、美味しいじゃん」 ホークは、セルティスの愛情のこもったチョコクッキーが、あまりに美味しくて、頬を膨らますくらいに、ほおばった。 「本当に美味しいよ、これ」 セルティスは素直に嬉しかった。こんなに喜んでもらえるとは思っていなかったから。 「ありがと……ん……?」 セルティスは、笑顔で言いかけたとき、口が塞がれた。 「チョコをくれたお礼な。美味しいチョコをありがとう」 ホークはキスをした。唐突にキスをされてセルティスは、目を丸くしたが、ホークを受け入れる。  こうして、セルティスはバレンタインデーという日を、ホークと2人で過ごした。
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