第一章

1/1
前へ
/7ページ
次へ

第一章

「山中、武蔵野線だよ!武蔵野線!」  悪友の鴨川がそう言った。  理屈ではわかっている。振られたばかりの俺にとって、とても面白そうなのは理解できる。  しかし、JRさんに怒られやしない?  「大丈夫。大丈夫。こう見えても、俺は高校二年生の頃まで、地理学科志望だったから。面白いぜ」  なるほど。鴨川がそこまで言うなら本当なのだろう。しかし、金欠病になっている俺にとっては、確かに興味のわく遊び。でも、これ、ただの暇人のすることなのじゃないの? 「俺達には、金はなくても暇はある。お前みたいに絵ばかり描いていて、美術館巡りフリークみたいになっちゃっているやつには、新境地が拓けるかも知れないぜ」  確かにそうだ。  彼女だった「平井さん」に振られて、毎日毎日辛くて仕方がないのだ。何しろ総武線で、この西巣鴨大学まで千葉の片田舎から通っているのだが・・・  東京都東部JR総武線に「平井」という駅があり、毎日自分の住んでいるさつき台のある新検見川駅から学校まで通おうと思ったら、どうしても「平井駅」を毎日通らねばならないのだ。  この間までお付き合いさせてもらっていた、彼女の名前が「平井順子」さんという名前で、毎日通学するときに総武線平井駅を通るので、通る度に彼女のことを思い出し、 「平井~、いい子だったよな~。戻ってきておくれよ~、君のぬくもりが忘れられないよ~」  と、総武線「平井駅」を通る度に毎日ブルーになっているのだ。  これ拷問だよ。  好きだった彼女と同じ名前の駅の路線を、もし学校卒業して東京に通勤することになっても、何十年も毎日のように気にしなきゃならないのだよ。  俺、学校辞めたくなってくるよ。千葉から引っ越したくなるよ。  東京中心部と反対側の中央線「三鷹」とか、「日野」とか、あっち側に引っ越せばいいのかな?  でもまた付き合った子の名前が「三鷹さん」だったり、「日野さん」だったりしたら、自分のようなモテない男、振られる度に毎日通り、 「三鷹~、いい子だったよな~。戻ってきておくれよ~」とか、 「日野~、いい子だったよな~。戻ってきておくれよ~」なんて、  また毎日、ブルーになっているのじゃ意味ないか?とか、先の先まで考えちゃうよ。  そんなアホなこと思いはするのだが・・・
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加