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第二章
スイカとは、大変便利なIⅭカードである。タッチすればチャージさえしておけば、切符なんて買わなくてもすーいすい。
俺はJRの回し者ではない。
しかし、JRも東京都交通局も一枚のICカードで乗れるのは、大変便利なカードである。ましてや、ファミレスでもどこでも使えるし、自分の一番好きなのは自販機でも使えること。
俺の住んでいるさつき台はコンビニがなく、俺、近くのジュースの自販機と友達になっていて、スイカ使えばコーラだってスポーツドリンクだってすーいすい。
でも、それがなんで「武蔵野線」に関係があるか?
西巣鴨大学に、このさつき台のある新検見川駅から通おうと思ったら、総武線に乗って水道橋駅経由で都営三田線に乗って西巣鴨駅まで来なければならない。
俺はつい一カ月前、彼女平井さんに振られ、所属する美術部の部室で、今日も鴨川に泣き言を言っていたのだ。
そしたら、友人鴨川が気分転換に、
「たまには毎日使っている平井駅を通る西巣鴨駅じゃなくて、埼京線の板橋駅使ったらどうだ?」
と言うのだ。
「板橋駅、学校から近いのだから、旧中山道通って歩いて板橋駅まで行き、そこから埼京線で北上し、武蔵浦和駅で『武蔵野線』に乗り換えたら楽しいぞ?」と。
ぐるーっと弧を描くように首都圏郊外を右回りに迂回し、新松戸駅、西船橋駅経由で総武線に帰れば、面白いぞというのだ。
なるほど。
鴨川も常磐線と武蔵野線の交差する、新松戸駅が自宅だ。普段は常磐線を使う。
これは、「大回り乗車」というらしく、東京近郊他、他の地域でも特別に許されているルールで、この東京近郊区間内という地域であれば、同じ駅を二回通らなければどこを乗ってもいいらしい。
定期券の場合、決められたルートを通らなきゃJRの人に怒られちゃう。
しかし、ちょうど定期がお互い学年末試験後で切れており、スイカでチャージしてある分で乗れば、大回り乗車してもいいらしい。
流石、鴨川。地理学科目指していただけあるよ。方向音痴の絵画狂いの俺にしてみたら、確かに頼もしい悪友だ。やるな。
平井さんに振られたことにすごいショックを受けていて、もう彼女なんて作りたくないくらいに落ち込んで、アパシーもアパシー、やる気ボロボロに失いかけていたのに。
この美術部の部室で仲間がみんな帰った後も親身に聞いてもらっていて物凄く感謝し、こんな夜まで男の友情で付き合ってくれて、鴨川には本当に助かったのだが・・・
しかし、友達は友達でも、鴨川が「悪友」ということをすっかり忘れていた。
この、鴨川がそんなただの友達思いで終わる男じゃなかったのだ・・・
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