右剣の少女

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歴史ファンタジー物語【右剣(ゆうけん)の少女】第三話 兄の亡霊 辺境地ハクアで、死んだはずの兄と遭遇したアンリ。 彼は王国軍の一員であり、エトワールと名を変えているようだった。    ***  その夜、アンリは眠れぬまま、思考を巡らせていた。    ***  そして翌日、アンリはモリスとリアムに話すことにした。 モリス「……アンリ。お前はまだ、家族のことを引きずっているのだな」 アンリ「……」 リアム「いいだろ、師匠。アンリにとって、簡単に忘れられることじゃないんだ。それに……本当に兄を見たんだとしたら」 モリス「何を言う。確かにあの日、騎士団の手で埋葬した。リアム、お前も見ていたはずだ」 アンリ「ああ……。墓のある場所もちゃんと知っている。だけど……あれは、あれはたしかに兄だった。10年前に私を庇って死んだ、エフィム・シュミットだった」 リアム「だったら確認しに行くか? もしかしたら掘り起こされて、空っぽになっていたり……」 モリス「馬鹿なことを言うんじゃない」 リアム「悪かったよ……」 モリス「おそらく、よく似ていただけの別人だ。夜の闇の中だ、見間違えたのだろう。だが、お前の名前を知っていたことが、気にかかる。それに、アンリが生き残っていると王国に知られては、お前の命が危ぶまれる」 リアム「そうだな……」  モリスはしばらく考え込み、アンリの顔を見て心を決めると、話し始めた。 モリス「この10年の間で、私はお前の家族について少し調べていた」 アンリ「……」 モリス「お前の父シュミット伯爵は、リェス選帝公に仕える直属の臣下だった。聡明で面倒見も良く、評判の良い人物だった。それゆえに、伯爵が謀反の罪で処せられたことに疑問を持つ声も多かった」 リアム「謀反って……王様に従わなかったってことだっけ」 モリス「王に対し、その座を揺るがす行為をしたことへの罪状だ。その頃、王妃が急に体調を崩し、病に伏すようになった。一部の間では、毒をもられたのではないかと噂されていたようだ。原因究明が王都で行われ、結果、シュミット伯が王妃の失脚のために、手を下したのだということになった」 リアム「わからない。なんでそうなるんだ。アンリの父さんは、みんなから慕われる、良い人だったんだろ!?」 モリス「今、王都には多くの陰謀が渦巻いている。目的のために事実が捻じ曲げられることは少なくない」 アンリ「やはり……私の父は、まったくの無実で、処刑されたのか……」  アンリは怒りに拳を握り締める。  脳裏に浮かぶのは、あの雪の日の情景だ。    ***  雪のちらつく、山間の町。アンリエットは兄と一緒に、遅くまで外で遊んでいた。家に帰って居間で帽子を脱いでいると、急に家の外が騒がしくなった。 追手1「ジョルジュ・シュミット。貴殿には謀反の嫌疑がかかっている。大人しく同行せよ。家族も同様にだ。これは王命であるぞ!」  門の前で、そう高らかに告げる声が聞こえた。  再び戸を激しく叩く音。屋敷の使用人が、2人を裏口へと引っ張っていく。 エフィム「何があったの、マリーア。父さんと母さんは」 使用人「エフィム様、アンリエット様。早く裏口から外へ……早く! お逃げください!」 追手2「子供はどこだ! 二人いるはずだ。探せ!」 使用人「おやめください! ああっ……!」  大きな物音に振り返る妹。その小さな手を、兄は強く引っ張った。 エフィム「走るんだ、アンリエット。振り返るな!」  後ろで使用人の悲鳴が聞こえる。アンリエットは、片手で耳を塞いで、走った──。    *** アンリ「何故、そんなことがまかり通るのか……!」 モリス「アンリ。お前の怒りはわかるが、既に10年が経っている。今更どうすることもできまい」 アンリ「……だが、真実だけでも、私は知りたい。誰がどんな理由で、父に濡れ衣など着せたのか。そして、私が見た兄とそっくりの男は、一体何者なのか──」 モリス「ふむ……。お前が見た兄のことは、私も気にかかる。リェス選帝公領へ行く機会があるから、その時に調べてこよう」 アンリ「……モリス」 モリス「だが、期待はするな。復讐などという馬鹿な考えは捨てなさい」 アンリ「……」 モリス「わかったことは全てお前に話す。だからアンリ、くれぐれも勝手に王都へ行こうなどと考えるのではないぞ」 アンリ「……わかった」 リアム「俺も手伝うよ。俺にできることがあれば……」 モリス「お前は、アンリの側で支えになってあげなさい」 リアム「……! ああ」  モリスが立ち去ったあと、二人はしばらくその場にとどまった。 リアム「なあ、アンリ。俺は何があっても、お前について行く。お前のことを守ってやる。だから、なんでも遠慮なく、俺に言ってくれ。辛い時とか、悲しい時とか……」 アンリ「……ありがとう、リアム」 リアム「前のお前は泣き虫で、すぐ俺を頼ってきたのに、最近じゃそんなこともないからさ……」 アンリ「そうだな。昔の私は、よく泣いていた。悔しい時に、どうして良いのかわからなくて、それがまた悔しくて泣いた。でも今は……辛いということも、悲しいということも、そんなに感じない。泣くということも久しくしていないな」 リアム「そんな……ルカみたいなこと、言うなよ」 アンリ「……ルカ?」 リアム「あ、ああ。俺の昔の友達だ。……友達だった」 アンリ「そういえば、お前の過去を、私はあまり知らない」 リアム「話したことがなかったからな」  リアムは、目を細め空を仰いた。 リアム「今のお前みたいに強がりで……俺はそいつを……」  リアムは言葉を切り、アンリの方をじっと見つめる。 リアム「そいつみたいに感情を失って行くお前が、俺は心配だ」 アンリ「……ところで、お前の方は最近ロズウェルに泣かされていると聞いたが……」 リアム「あ! 誰から聞いたんだ!? くそ……あいつに稽古を頼んだら、めっちゃめっちゃにやられるんだよ……顔は可愛いくせにやることが可愛くない……!」 アンリ「稽古で泣かされるなど情けない」 リアム「お前だって──」  そこへ、騎士ロズウェルが、息を切らしてやってきた。 ロズウェル「ここにいたのかい。アンリ、リアム。戦闘が始まるから、支度をしなさい」 リアム「なにっ……」 ロズウェル「ついさっき、使者があった。いよいよ、王国が鎮圧に来る。戦いに備えるんだ」 アンリ「……!」 ロズウェル「君たちが前線に立つことはない。あくまでも救援が目的だ。だけど、戦場を見るということを、覚悟しておいた方がいい」 アンリ「ああ。前々より、覚悟はできている」 ロズウェル「援軍が到着する前に、民の避難を完了させたい。騎士モリス率いる同志たちが軍の足止めをするから、アンリ、君はここに残って、オスピタル修道院までの道のりの援護を頼みたい」 アンリ「騎士ロズウェル! 戦場へは、連れて行ってはくれないのか」 ロズウェル「全員でここを離れるわけにはいかない。数名の騎士には残ってもらう必要がある。……これも、大事な任務だよ」 アンリ「……」 ロズウェル「わかってくれるね、アンリ」    ***  すでに、王国軍のハクア鎮圧は始まっていた。  右を河川、左を森に挟まれた渓谷では、ただでさえ逃げ場は少ない。騎士団と周辺諸侯が足止めをする間に、ハクアの民を安全な場所まで避難させる手筈だが、徐々に王国軍に押されつつあった。勝ち目などはほとんどないに等しい。しかし── クラウス「向こうも苦戦しているな……」  長引く戦いに、クラウスは眉をひそめる。 バルザック「地の利はこちらにある。平地での暮らしに慣れている王都の人間には、見通しが悪く障害物が多いハクアは、攻めづらい地形だ。おまけに長くに渡り大きな戦さもなく、奴らは戦闘経験が乏しい。このままいけば、王国軍を追い返せるかも知れん」 クラウス「本当か? 騎士バルザック」  モリスは飛んできた矢を切り捨てた。 モリス「だが、こちらの消耗も激しい。これ以上戦闘が長引き、さらなる王国の後援部隊が来るようであれば、敗北するのは時間の問題だろう」 バルザック 「ふん! 貴殿は我ら騎士団が、負けるとでも仰るのか」 モリス「先を見通し、策を練らねばならん、と言っておるのだ。ただただ突っ込んで行くだけでは無駄死にするぞ」 バルザック「では貴殿には、どのような策がおありなのか」 モリス「……鎮圧に来た割には、兵士の数が少ない。使いの者が言った数にも満たぬ」 ルイス「つまり……」 モリス「森に伏兵がいるやもしれぬ。ロズウェルにはもしものことは伝えたが……騎士バルザック。ここを任せられるか」 バルザック「無論だ」 モリス「マイルズ殿。しばし修道院の様子を見て参ります。騎士ルイス、騎士クラウス、一緒にきなさい」 クラウス「はっ」 ルイス「は、はい!」  モリスたちは近くの小屋に隠してあった馬に飛び乗る。 モリス「あの場所なら、谷を一望できるな」  モリスは谷の傾斜を見上げた。ハクアは両側を崖に挟まれた土地だが、大昔に崩れたのか、なだらかな斜面となり、森が広がっていた。そこからは姿を見せずに、この戦場を見下ろすことができる。 ルイス「何か気にかかることでも?」 モリス「うむ……」  モリスはルイスの問いには答えずに、修道院へと馬を走らせた。    ***  一方、モリスが見上げた森の中で──。 エトワール「どうだ、グエン。何か変わったことはあったか」 従者「いえ、特には。我々王国軍が優勢です。ガルディア騎士団は時期、白旗を上げざるをえませんな」 エトワール「はっ。お前の目はいつだって節穴だな。今、騎士が数人、陣営から離れなかったか? おい、その双眼鏡を貸せ」 従者「あっ……。そんな引ったくらなくたって……」 エトワール「ふん。やっぱりな。先導を走るのは優れた剣士と名高い騎士モリス・ベルナルドか。森の方へ向かっているな……。伏兵を張らせているのがバレたかな?」 グエン「バレたところでどうすることもできんでしょ。ただでさえ軍勢はこちらがはるかに多く、向こうは負傷人だらけなのですからね」 エトワール「だが、地の利は向こうにある。確か、向こうにもう一本道があったはずだ。長く使われていない獣道だが、逃げられるということも十分に考えられる。おい、グエン! 下の陣営に行って、西側の道にも兵をつけろと伝えてこい」 従者「はい」 エトワール「……いや、やはり俺も行く」 従者「何故です。私だけじゃ道に迷うとでも?」 エトワール「ああ。そのまま敵に捕まっちゃ困るからな」 従者「本当に私に信用がないのですねぇ……」 エトワール「結局昨日俺とはぐれて、朝まで森を彷徨っていたのはどこの誰だ?」 従者「はいはい………」  軍人エトワールは馬に乗り、従者とともに森の中を駆けていった。崖の上に領地を構える彼にとって、この森は庭のようなものだった。 エトワール「(頭の中で)ガキの頃から馬に乗って、よくこの森に来ていたからな。土地勘のない馬鹿な奴を動かすより、俺が走った方がマシだ。それより……」  エトワールは進路を右へずらした。自陣へ行くには遠回りになる。今、彼の頭にあるのは、昨晩出会った少女のことだった。 エトワール「(頭の中で)妹は……アンリエットはガルディア騎士団にいる。あの格好からして、戦場にも出ているのだろう。機会を見つけ、もう一度話がしたいな」   ***  エトワールは森を抜ける手前で馬を止めた。 エトワール「やはりハクアの連中は、森を抜けて、上の修道院へ逃げるつもりだな。しかし、聞いていた話と違う。ほとんどが女子供ばかりじゃないか……我が妹は……」  しかし、遠目には少女の姿は見つけられなかった。 従者「あれが敵の騎士団ですね?」 エトワール「黙ってろグエン」 従者「もぅ、ほんとに当たりがきついんだから……」  エトワールはしょげる従者のことは無視して、別の問いを投げた。 エトワール「敵の兵力は500人だと、お前は言ったな?」 従者「ええ、将軍ウィリス様がそうおっしゃっていましたよ。ですが、私が見たところでは、500人というのは民の数ですな。女子供爺さん婆さんも頭数に入れての数字でしょう」 エトワール「それは兵力とは言わん。これでは王国軍は鎮圧ではなく、虐殺をすることになるぞ」 従者「そのおつもりなのでしょう。何しろ王子は、ハクアの民を毛嫌いしていますからねえ。あのお方も、前々より谷の整備を計画なさってますから、良い機会だとお考えになったのでは」 エトワール「はっ。俺は偵察の命は受けたが、虐殺はごめんだぞ」 従者「ですから、鎮圧なのです、これは」 エトワール「これだから戦場へは来たくはなかったんだ」  エトワールらは再び馬を走らせ、自軍の陣営へ駆け込んだ。 エトワール「指揮官はどこだ。直ちに守りを固めろ。敵側が優勢だぞ。どこぞの騎士団なんぞに勝たせてやるつもりか?」 ウィリス「エトワール・ノーブル様。いくら貴族の出といえど、ここではここでの階級がありますゆえ。己の立場を弁えて発言していただきたい」 エトワール「いいのか? そうやって呑気にのさぼってる間に攻め落とされるぞ。ほら、あれが見えないか」 ウィリス「(嘲笑って)しかし、相手は小規模の騎士団ですぞ。あんな100にも満たぬ兵力で、東の兵団が破られるとは到底思えん」 エトワール「ああ、そうだな。だがあんたは昨晩、敵の兵力は500だと言ったが? 後の400はどうした」 ウィリス「それは……私は騎士団の話をしておるのだ。それに、修道院の中にもまだ立てこもっているようだからな。実際の細かい数までは把握しきれん」 エトワール「まあ、それはいいとして。──向こうの騎士団は全員が武装し戦い慣れている。こっちは軍隊と見せかけて、半分がかき集めの農兵だ。王宮が金を出すのを渋ったおかげでな。破られる可能性は十分にある。そんなこともわからないとは。俺が代わりに指揮を取って差し上げましょうか? ウィリス殿」 ウィリス「ぐぬぬ……成り上がりめが。黙って上で隠れて見ていれば良いものを……」 エトワール「お望みならばそうしますよ。俺も主人(あるじ)の命令でなければ、こんな所なんて来たいとも思わなかったしな。来い、グエン」 従者「はいはい、エトワール様」 エトワール「ああ、そうだ……おひとつだけ進言します。一体何を見て兵力が500などと仰ったのか存じ上げませんが、私の見受けた限りでは、200も満たないかと。あまり見栄を張ると、後々痛い目に遭いますよ。ですが、一人当たり二人分の働きをするのだと思えば、我が軍の方が劣勢と言えますね。では」 兵士1「ノーブル様……!」 兵士2「ここに残って、我らとともに闘われないのですか……?」 エトワール「俺には他にもやることがあってな。ここのことはお前たちに任せる。なに、そう心配することはないさ。なんせ優秀な指揮官様がいるのだからな。これが片付いたら、 俺の領地へ招いてやるから、皆んなで祝杯をあげよう。酒も料理もたくさん用意する。だから、しっかりやるんだぞ。いいな?」 兵士「はいっ」 エトワール「(小声で)それに、俺はあまり戦闘は得意じゃないもんでね。できれば剣を抜きたくない」 グエン「王都での剣の試合でも、ボロボロに負けましたもんね」 エトワール「黙れグエン」 兵士3「た、大変です! たった今、東の兵団が騎士団に破られました! そのまままっすぐこちらへ進軍してくる模様!」 エトワール「来たか……。敵襲だッ! 気を引き締めてかかれ!」 ウィリス「戦闘準備! 東だ! 東側を守るのだ!」 兵士1「ダメです、将軍! 間に合いません! 突破されます!」 ウィリス「弱音を吐くな! それでもお前ら王国の兵士か! たかが騎士団如きに破られるとは許さんぞ!」   ***  屋根の向こうで、火の手が上がる。風が戦場の喧騒を運んでくる。アンリはロズウェルらとともに避難誘導をしながら、黒煙の上がるを差を見つめた。 リアム「アンリ。大丈夫だ。騎士団はそう簡単には負けない」 アンリ「ああ、わかってる」 女性「嫌だわ。もう嫌。私、ここを出たくない! ここに残る!」 ロズウェル「いけません。時期、王国軍がやってきます。その前に、早く逃げなくては」 女性「ぞそうよ! 森の中にいるのを見たわ。本当よ! でも、家にはまだ大事なものがたくさんあるの。置いて行けないわ。だいたい、ここは私たちの土地なのに、どうして逃げなくちゃいけないの! あいつらは侵略者よ。天罰が下るといい!」 ロズウェル「そうです、ここはあなたたちの土地で間違いない。しかし、今は逃げる時なのです。命を落としては、ここへ戻ることもできませんよ。さあ、早く」 女性「ここへ戻ることなんて、もうないのでしょう! だったら、今持ってくるわ。あれは私の財産なの。簡単に見捨てろなんて言わないでちょうだい!」 ロズウェル「いけません! 町に戻ってはいけない!」  ロズウェルの静止も聞かず、女性は町の方へ走っていく。しかし、道半ばで悲鳴を上げて倒れた。紅い体液が服を染め、道の上を流れる。 アンリ「……!」  アンリは血走った目で剣を掴むと、銃口が光る家屋の影へ、駆けていった。 リアム「やめろ! アンリ、戻ってこい!!」  アンリは聞く耳も持たず、敵兵の中へ飛び込むと、次々と腕や腹に切りつけた。 敵兵「うぐぁ……!」  敵兵は低いうめきとともに、患部を押さえて地面へ崩れる。最後の一人に斬りかかろうとした時、敵兵は叫んだ。 敵兵「助けてくれ!」  その一言で、アンリは怯んだ。  背後でナイフが光る。 アンリ「はっ……!」  振り返ったアンリの右側のマントを、ナイフは掠めた。右腕があれば、確実に刺されていた。  あるものがないことに驚く兵士のこめかみに、鋭く矢が刺さる。 敵兵「う……ぐ……」  ほとんど声も上げず、敵兵は地面に崩れた。  血を拭うアンリの目線の先で、リアムが弓を下ろす。 リアム「勝手な行動をするなと言ってただろ」 アンリ「……すまない。頭に血が上って」  そう言ってすぐに、アンリは視線を感じて振り返ると、肩から胸に傷を負った敵兵と、目があった。思った以上に深傷を負わせてしまったらしい。立つ元気もなく、壁にもたれ、出血がひどく、呼吸も弱々しい。 兵士「頼む……ああ……」  兵士がアンリに訴えかける。 兵士「ころ……して………くれ……くる……し……い」 アンリ「……」  アンリはじっと考えた。兵士の様子からして、そう長くは生きられないだろう。 兵士「頼む……」 アンリ「……望みとあらば」  アンリは静かにそう言うと、すらりと剣を抜いた。しかし、その手をリアムに止められる。 リアム「これ以上、手を汚すな」  リアムは、アンリから剣を奪うと、兵士の上へ振り落とした。  肉を切る感触。赤い液体が飛び散り、兵士の命は途絶えた。 アンリ「リアム」 リアム「……魂よ、安らかに」  アンリは返された剣を納め、二人は十字を切る。
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