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「そういえば、もうすぐ就活でなかなかシフト出られなくなるけど、こはるっちどこの会社行くの?」
「私? とりあえず地元企業」
「マジか。東京行かないの?」
「無理無理無理無理。家賃高過ぎて払えない」
「そっかそっか。俺は彼女と東京行こうかと思ってるんだよ」
そう言われて、私はまたも勝手に傷付いた。
火山灰は軽くても、勝手に何でも傷付ける。
「へえ……でも初任給でふたり暮らしするの、大変じゃないの?」
「だから今までがっつり貯金してた。彼女と暮らしてみて、東京に馴染んだら結婚しようと思っているし」
「へえ……! すごいじゃない。パワーカップル目指すの?」
「なにそれ格好いい」
「年収無茶苦茶あるカップル。お金無茶苦茶稼がないと駄目だけど」
ふたりでしゃべりながら、私の中でまたもぐつぐつなにかが煮えたって、積もっていくのを感じた。
早く振られてしまえ。別れてしまえ。そう勝手に呪っていても、木崎くんは相変わらず彼女が大好きで、彼女は相変わらずいい人みたいだった。
私だって早く他の人を好きになれたらいいのにと、友達の付き添いでサークルの飲み会に顔を出してみたけれど、どうにもならなかった。
皆、勝手に木崎くんと比べてしまっているから。
彼よりも身長が高いな、低いなとか。彼のほうが注文聞くの早いなとか。彼だったらここでもうちょっと小粋なトークを挟むなとか。もう、どうしようもなかった。
「東京で頑張ってね」
「まだ内定取れてもいないのに」
「ううん、多分木崎くんだったらいけるよ。こんなに仕事できる人だもの。どこに行っても絶対に大丈夫」
「おう? ありがとこはるっち」
「うん。頑張ってね。私も頑張るから」
彼が遠くに行ってしまったら、私も捨て場所を探している恋をどこかに置き去りにできるだろうか。
バイト先の四時間だけは、彼女さんもいない、ふたりで友達として付き合うことを許してもらえないか。
私はこの時間が早く終わることを願いながら、あともう少しだけどうにか引き伸ばせないかと探っている。
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