01.いつも父さんの言うことは同じだ

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01.いつも父さんの言うことは同じだ

 勉強に疲れた僕はスマホを手に取り、動画サイトを開く。検索結果をざっと眺め、良さそうな動画の再生ボタンに触れる。画面にはお目当てのあの姿。  海の中で優雅に泳ぐその姿。透明感のある肌は透き通るように白く、その柔らかい身体はキラキラと輝く細かな光の粒子を身にまとっているみたいだ。いつまでも眺めていたいと思わせる光景。 「おい、ちょっといいか? 開けるぞ」  部屋のドアの向こうから父さんの声が届く。突然のことに慌てたせいで、僕は思わずスマホを床に落とす。父さんは構わずにドアを開く。スマホの画面を隠しきれないうちに。 「開けていいって言うまで開けないでよ。いつも言ってるだろ!」  僕は床のスマホに手を伸ばしながら父さんに文句を言う。 「お前、勉強もしないで、またそんな動画なんか観てたのか!」  僕よりも先に父さんがスマホを拾い上げ、画面に映るその姿を目にしてしまう。生々しい身体をくねらせ、優雅に海を泳ぐ姿を。 「お前、またクラゲなんか見てたのか」  父さんはあきれながら僕にスマホを返す。 「なあ、お前。勉強の息抜きにクラゲの動画を見るのもいいだろうよ。でもな、もっと将来のことはもっと真剣に考えろ」  そんなうっとうしいことをまた繰り返した父さんに僕は反論する。いつもいつも父さんの言うことは同じだ。 「クラゲの研究者のどこがいけないのさ?」 「いけないわけじゃない。でも、クラゲを研究するにはまず大学に合格しなきゃはじまらんし、そこから大学院に行って熱心に研究して、研究の仕事を探さなきゃならんだろ? まずは目の前の勉強に集中できないやつに、そんなことできると思うか?」
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