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親友
この洋服を着ても、あの洋服を着てもあの子には叶わない。
あの子はいつもジーパンとtシャツなのに。
あの子だけ輝いている。
彼女と初めて会ったのは短大の入学式だった。
整った顔立ちに、背が高い彼女。
同級生の中で群を抜いて大人っぽかった。
あの子と友達になりたいー。
そしていまやあの子は一番の親友であり一番のライバルでもある。
あの子よりいい鞄を。
あの子よりいい財布を。
あの子よりいい派遣先を。
あの子より条件のいい彼氏を。
いつも探し求めてる。
そして辿り着いた答えがあの子が何より大切にしている彼氏だった。
あの子と彼は高校の時からずっと付き合ってるだけあって、落とすのは大変だった。
でもある晩、彼が落ち込んでいる所に押しかけると後はいたって簡単だった。
彼と会っている時間だけ、私は彼女に勝つことができる。
自分が自分である事を確認できた。
彼女は私に「彼が浮気しているみたい」と相談に来た事もある。
でも、「気にしすぎるだよ。彼を信じてあげな」と言うと彼女は途端に安心した顔になり、何度もお礼を言われた。
彼はどんどん私にのめり込んでいく。私も彼にどんどんのめり込んでいった。
彼女の親友というシチュエーションが彼を酔わせて行く。
ある日の事だった。
彼の部屋に行き、彼のベッドに潜り込むと、ドアがいきなり開いた。
そこには彼女が立っていた。
彼女は私の顔を見るとその場に崩れ落ちた。
彼と私と彼女と三人でテーブルを囲んで座った。
沈黙の後に喋り出したのは彼女だった。
「いつかは、こうなると思ってた。マミは私なんかと比べて可愛いし、オシャレだし、友達も多いし、マミの近くにいたら好きになっちゃうよね」
私は言葉がでてこなかった。
どうして?
羨ましいのは私の方なのに。
どうして?
彼女が私を羨んでるの?
彼が彼女に謝った。
「ゴメン、俺はもうマミの事しか考えられないんだ」
彼女が彼の頬を強くぶった。
そして彼女は部屋を出て行った。
「これで何の邪魔もなくなったよ、マミ」
彼が私の瞳を見つめた。
でも彼は急に色褪せて見えた。
そこにいるのはイケメンでもない、誠実でもない、優しくもない、くたびれた男だった。
私が求めていたものはなんだったんだろう。
虚しさが胸から込み上げてくる。
彼が後ろから抱きしめてきたのを、振りほどいた。
そして玄関から飛び出すと真夏の暑い日差しが容赦なく襲い掛かる中、泣き叫んでいた。
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