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―旅の景色Ⅸ 2日目、赤璋騎士の戯れに―
「さて、行くぞ!」
休憩時間延長を受けて、張り切った声を上げるアルに、ホディはちょっとだけ、変な気持ちがした。
なんだか、ざわり、と、胸を撫でられる感じ。
「どこの視察ですか?」
順当な問いを掛けるホディに、アルは、横目を流して、ちょっとだけ、何やら考えるようだ。
「ホディよ。従者の役目はなんだと思う」
「うええっ?ええと、付き従う者…ですかね…」
「そうか。じゃあ、まあ、ボルだけ、連れて行こうかな!ホディ、こっち頼んだ」
「うええ、ちょっと待ってくださいよ!何を唐突に、はっ!!」
「まさか、例の野盗…」
ボルが気付いて、呟く。
「折角、時間ができたんだ!使わない手はないだろ!」
この先、ブルネーレルの森には、少数ずつの纏まりを見せる、野盗が潜んでいる。
大きな団体となる、この留学者一行に襲い掛かるほどの規模ではないはずだが、懸念材料では、あるのだ。
「へーき、へーき!あとはもう、回収してくるだけだからさ!」
「どどどどういう、ちょっ!待ってくださ…」
「アル。報告義務があります」
様子に気付いたカヌイが来て、状況を察し、釘を刺す。
アルはまた、そちらに流し目を遣り、それから腕を組んで、向き直った。
「うん。連絡の必要は認める。だが、これを捨て置く彩石騎士は、居ねえ」
そこにある問題をすべて、解決しようとするのじゃない。
世界を見回して、ひとつひとつの問題に、変革と言えるほどの影響をもたらすことができる。
それをしないのは、彩石騎士は、たとえ引退しても、アルシュファイド王国の騎士だからだ。
アルは、少年の幼さを見せる笑顔をカヌイに向けて、言った。
「大仰に取るなよ!降りかかる火を捩じ伏せるだけだ!」
正直、政王機警隊としては、止めるべきなんだと思う。
だけれど、自分も、1人の騎士だから。
隣人の憂いを知って、放っておけるわけがない。
「普通は、払うんですよ…」
返して、仕方ないなと笑う。
帰国したら、仲間の女騎士ダナ辺りが、冷たい目で見そうだ。
「時間内に戻ってください」
「おうよ!」
声を上げて、走り出す。
その背中に、どうしても、笑い声が漏れた。
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