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―旅の景色Ⅹ 2日目、ブルネーレルの森の野盗たち―
異変は、すぐに現れた。
暗くなってすぐ、街道を行く大型の馬車に、このブルネーレルの森に潜む50名ほどの野盗たちは、色めき立った。
馬車は大きい割に、護衛の馬も連れず、速度は速く駆けているけれど、止める方法など、いくらでもある。
徒党を組むわけではないが、互いに牽制し合う彼らは、早い者勝ちとばかり、誰もが街道近くで待ち構えていた。
そこで、ふと、体に感じた違和感。
次の瞬間、辺りの風が急激に動き、自分たちが身を置いていたのが、他者の内だったと、否応なく気付かされた。
怯え、惑う内に、攻撃の時機を見逃し、慌てている間に、馬車は通り過ぎてしまった。
そのあと、すぐに気付いた。
自分たちが、当たり前に持っていた異能を、使えなくなっていること。
力は、無くなっていないと思う。
感じることは、できるように思う。
それなのに、使えない。
息をするほどに自然な行為が、できない。
できなくなった………――!!
その衝撃をなんと言おう。
とにかく誰もが、息を止め、動きを止め、倒れ伏し、地を掴み。
その混乱に打ちのめされた。
それから、一週間が経つ頃。
彼らは、のろのろと立ち上がって、これまで自分たちが続けてきたこと…他者から暴力によって、不当に、その財産を取り上げる行為を繰り返そうとしていた。
そんなとき、だ。
森にまた、1人の若者が入ってきた。
正確には2人だが、一方の存在感が、あとの1人の存在を、従える馬か何かのように、意思を持っていたとしても、野盗らに、問題にする意識を持たせなかった。
不敵に笑う若者は、顔を上げて、その笑みを、彼らが認めた瞬間に。
すべてを終わらせていた。
まずは、探りに出した4名が沈黙し、連絡を待っていた仲間たち4組が、次々急襲され、拘束されて、街道まで引きずり出された。
残る3組も、時を移さず捕縛され、腰に回された蔦のようなものによって、強制的に歩かされ、街道に戻った赤髪の若者…赤璋騎士アルの元に、集められたのだった。
この捕縛の蔦は、彩石騎士仲間の2人と、こんなのはどうかと、多人数捕縛用に作成した仕掛けなのだ。
満足そうに笑顔を浮かべる若者に、力なく、何者だと聞く。
「俺はアルシュファイド王国の彩石騎士が一、赤璋騎士アルペジオ・ルーペンだ!これまでにも、兆候はあったはずだぜ。うちの商人たちを襲おうとしたんだろうから、それができないことを、異変だと、認識してれば、気付けたはずだ。こういうことはな」
アルは、笑いを収めて、前傾姿勢を改めた。
「通告する!お前たちの罪状を明らかにし、それに応じた償いをしてもらう!すべては、それからだ」
凛とした声。
異能を使うわけでもなく、耳を叩くそれは、どこか心地よかった。
「失われたもの、傷付いたものは、元には戻らねえ。それでも、向き合うことこそが、罪人の報いだ。それだけは、投げ出すんじゃねえぞ」
そう言うと、あとは特別、話すこともなく、腰の蔦による強制により、体を引かれて、荷馬車に自分たちで乗り込んだ。
一週間前に受けた衝撃が、今、染み込むように。
野盗たちは、毒気を抜かれて、ただ大人しく、アバト側の駐留軍に引き渡されたのだった。
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