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―旅の景色Ⅱ 3日目、バーバリア領都街道町―
シリルとウォルトは、人の流れに乗って歩き、停車場から少し離れた店に入った。
食べ物を売る、こちらでは、品数を少なく抑えた献立を提供しており、持ち運びや食べやすさを考慮した形で纏めている。
こうした店が多かったようなので、売り場には、それほどの混雑はない。
「食べてみようよ!さあ、並んで」
今回は、ジョージイとベルリンが付いてきており、並びながら、上部に示された写真額から、あれが良さそうだと、纏め売りの、ひとつを選ぶ。
主菜と飲み物の纏め価格で、主菜の具材が味違いということだ。
いずれも、甘さはなく、大人の女ならば、昼食の量でも問題ない。
育ち盛りの少年には少ないぐらいだが、今は食事前なので、ちょうどよいと言っていいだろう。
挟み飯と言われる主力商品は、好みの、多くは塩辛みのある具材を、形作ったヒュミの片面に載せ、専用の鉄板に用意した片面を合わせて、挟み焼きするというもの。
それほどに強い接着ではないが、崩れ難くはなるので、食べやすい方だ。
この主菜を、自由な味で、ふたつと、数種類の飲み物から、ひとつ選ぶという、一揃えの纏め売りを選ぶ。
具材の味の見当はつかなかったが、ヒュミの焼き上がりの香ばしさが、おいしさを予感させた。
無事に購入した4人は、店の裏手に回って、露台の席で、それらをいただく。
「んー、なんだろ、葉?植物…」
「根菜の葉っぱだよー。カタルじゃないかな、この苦み。この辺では、根っこを食べるのが普通だけど、葉っぱも、おいしいんだよ。油で炒めてるから、味わいも加わってる。ご飯に挟むから、味が濃いめだね」
ベルリンが答えて、うまそうに頬張る。
ヒュミの最大生産国であるチタ共和国と、隣国ミルフロト王国、その中央に位置するクラール共和国では、ヒュミを主食とするチタ共和国の影響もあって、ヒュミのことを、ご飯、とも、呼び習わしている。
これは、ヒュミ生産が盛んな、アルシュファイド王国でも、聞かれる言い回しだ。
ベルリンの出身国であるヴァッサリカ公国では、聞かれないが、長くクラール共和国に身を置いている彼には、自然な言い回しだ。
シリルとウォルトは、女店員の勧めに従って選んでみた具材だったが、なるほど、塩味が強めなので、ケイマストラ王国での普段の食事の味から、それほど離れない。
もう1種類は、甘辛い挽き肉炒めで、こちらは食べたことのない味だが、不思議な味が染み渡る、おいしいものだった。
「おいしかった!」
「うん!うまかった!」
興奮に頬を染めて、笑い合う少年たち。
まだ、両者とも、緊張感が見られるけれど、共有できる思いは、確認し合えているようだ。
ベルリンは、なんとなく、昔に親しんだ少年を思い出した。
「お!見てごらん、ここからでも城が見えるね!」
ジョージイの声に振り仰ぐと、青い空を背景に、灰色の塔を数本持つ城が見えた。
「なんだか、高いなあ…」
「あちらに比べて、ここは低いからね、余計に。あの色は、たぶん、石だね。この辺のものかなあ…」
「石じゃない場合もあるの?」
「うん。メテオケス王国なんかは、異能で作り出した黒土を固めてるよ。硬くしてるんだ、石みたいに。ま、城の造りとしては、あんまり勧めないけど…」
「え、なんで?」
「異能で作り出す土は、何かと細工が、しやすいんだ。ただ、まあ、古い時代に造られたものなら、術者はもう居ないから、その点は安心だ」
「え、と…?」
「異能は心に従って動く。本人の作り出したものは、容易に変形も消滅もできる。ほかの者が、働き掛けるには、苦労するが、一度要領を掴めば、繰り返しの作業には手間取らなくなってくる。実在する石と、どちらが扱いやすいかは、術者によるが、作成から人の手によるものは、時に計り知れない人の意思に影響を受けるから、そういう点で、心配が多いのかなと、俺は思う。ま、城ともなれば、影響を弾く事前の仕掛けもあるんだけどね」
「ん。あ、だから、勧めはしないと」
どんな作業も、長短はある。
当事者に心構えがあるのなら、他者の口出すことではない。
シリルは、出発以前に参加した、騎士会館修繕作業を、頭に浮かべた。
「さて!そろそろ帰ろうかね!出発が遅れては、困るよ」
そういうことで、不用となった包み紙などを塵箱に捨てて、一同は馬車に戻った。
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