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―旅の景色Ⅲ 3日目、街道町レモン―
昼食を用意されていた町は、名称をレモンと言い、北側の店の並びの向こうに、住宅街のある町だった。
住宅の向こうは、深く見える林で、その向こうに、多くの者たちが耕作を行う土地があるのだという。
そこでの栽培は、プノムが多く、一度、種蒔きの蒔季(じき)、花期にある花季(かき)、実を育てる熟季(じゅくき)、収穫の穫季(かくき)という四季が過ぎると、全く別の野菜を植える、といった輪作を行っており、四季をずらすことで、1年を通して収穫量を一定に保つなど、チタ共和国のような広大な土地はないものの、流通の安定した農業を営んでいる。
プノムの多くは、出荷もするのだが、小さすぎるなど、売れ難い形状のものは、自宅のほかに、街道町の食堂で消費する流れが作られている。
それもあって、ここでの食事は、プノムが主体だ。
「調理の仕方が全く違うし、合わせてある食材が多様だし、多色だし、何より、味付けが全く違うね!」
様々な国の料理を食べてきたジョージイから見ても、この食堂のプノム料理は、目に楽しかった。
プノムと言うのは、地下で肥大した茎を食べる野菜のひとつで、これは、窪んだり突き出ていたりと、形が定まらず、大小の違いも大きい。
いくらか、毒を含むこともあるが、除去の仕方を心得ていれば、1年を通じて、暑くなどない、この大陸のどこでも、常温で長く保ち、極端な刺激を与える味わいの無い、量を食べるのに向いている食材と言える。
ミルフロト王国、と一国で考えると、穀物の最大生産国であるチタ共和国の隣国なので、主食となるヒュミや、サズが、入手しやすい土地ではあるのだが、中でも西側に位置する、このバーバリア領までとなると、この先で取引するために通るだけ、ということが多く、それなりに高く付くヒュミやサズを買うよりも、余りがちなプノムを食べる方が、腹を満たしてくれる。
3年前までは、延々と続く変化のない味でも、腹を満たせるならと、我慢して食べる、という状態だったのだが、徐々に整えられた、この街道町を中心に、調理の仕方が改められたため、今では、このプノム料理の幅広さを、名物とまで認識してもらえるようになっている。
ジョージイの満足げな言葉を聞いて、シリルも、よくよく味わって、箸を進めた。
プノム以外の食材は、量は多くないが、種類が多い。
そのため、これだけ食べる者を楽しませられるのだということを、シリルは、味わうことで、知ることができたと思った。
食事は、ただ腹を満たすだけではない。
会食で話の種にするばかりではない。
人々の生活を、支えるものに、できることなのだ。
考えながら口を動かすシリルを見て、目上の者たちは、目元が緩むのを感じる。
食事を終えて、茶を飲みながら、改めて、広い窓の外の通りを見下ろす。
簡素だが、行き届いた造りの建物は、ケイマストラ王国では見ることのできない、確かな安全と、外気から隔たれた安心をくれる。
その建物が、多くの旅人の用を果たせるほど、整えられているのだ。
王都フランシアの建物とは、違う。
王族、貴族はもちろん、侍者、警護の者たちも、建物の中に居る安らぎを感じた。
室温は適度で、温かな陽の光を感じながら、表を眺められるなど、少なくとも、庶民の生活では、ないことだ。
あの低い土地では、一年を通して冷たい外気が、どこからか忍び込んで、屋内を冷たくし、音が、虫が、脅かす。
彼らは、自分たちの国が、これほどまでに貧しいのだと、実感した。
調理の種類など、考えることもなく、ただ、満たされぬ人々を見る。
王族でなくとも、考える。
貧しさを当たり前に受け入れることは、正しいことなのか。
誰か1人が、個人として、目の前に居るからと、助けてやる、そんな簡単なことではない。
ただ目にしたことだけ、1人1人を、掬い上げていくことが、今の段階で適切だろうか。
そんなことよりも。
誰が、どんな助けを、必要としているのかどうかを、知ることじゃないのか。
全体を知らずに。
ただ、1人の人を見て、手を差し伸べるだけなんて。
あまりにも、考えが浅過ぎる。
多くの知識が必要だ。
多く事柄を考える必要がある。
それには、たった1人の手では、掴み切れないものが多過ぎる。
ふっと、ここにある、休息のなかに、学ぶために国を出てきた者たちは、これからのことを、考えた。
「―――それでは、馬車まで、いくらか歩きます。出発は13時ですから、間に合うように、声を、お掛けします。出られる方は、順に、ご案内します。数名ずつ纏まるように、顔触れを決めてください」
部屋の出入り口に、案内のアルシュファイド王国の騎士が立ち、纏まりの顔触れと、順序を決めると、皆が立ち上がった。
先頭は、シリル、ウォルト、ジョージイ、ベルリンと、護衛含む、その侍者たち。
次が、年少の者が男女の二組ずつ、前後して固まることにし、最後尾は、年長の青少年だ。
アルは、部屋を最後に出て、皆を追い抜いて行き、シリルとウォルトの斜め前を歩く。
この道の路面は、踏み固められたような土で、薄い茶色だ。
雨が降った後ということでもなく、乾いており、窪みが広く深すぎるまま放置したり、小石などの転がっている様子はない。
道幅は、馬車1台が通るのに苦労はしないだろうが、通る人の様子を見れば、普段から、馬車が駆け抜けることを意識していないようだ。
一行は、3列ほどの幅を見て広がっているが、アルのように、護衛の者が、護衛対象者を目に留めやすいように、斜めの位置取りをしているためなので、要人には、2人ずつまでの並びを努めてもらっていた。
道の両脇にある塀は高く、背の高い大人の男でも、上部に手を掛けて上ることは難しいだろう。
「壁しか見えませんね…。この向こうは、先ほどの食堂?」
カタリナの声を聞き付けて、ワティナが振り向いた。
「ええ、そうです。店の関係者が利用する臨時宿舎を併設していたり、あとは、食材の買い出しに必要な荷車の置き場や、食料倉庫とかでしょうか。馬は、別のところで、管理していますから、必要な時だけ連れて来るのですよ。この道は、馬や車の出入りをしない側なんです」
「そうなの」
「ええ。変化の面白みは、ありませんが、ただ通るだけなら、こちらが安全です。もう少ししたら、変化がありますよ」
聞いた通り、長い塀が終わると、十字路に差し掛かり、交差する道は広くなって、馬車も通っていた。
ただそれは、屋根などない、近距離でしか使わないだろう、荷車だ。
「この先、店の並びを通ります。纏まりごとに、いくらか間を広げた方がいいので、ごゆっくり」
道を渡って、しばらく、まっすぐ進んだが、先ほどまでの壁よりも、少し低くなっている敷地の仕切りは、薄い板を斜めに並べて、隙間のある、体重を掛けるには頼りないもので、押し入ることはできるのだろうが、忍び込むことは、どうにも、やり難そうな具合だ。
「奇妙な柵ね…」
敷地を守るなら、高く頑丈な壁が良さそうなのに、これでは、目隠し程度しかできない。
「奇妙ですか?まあ、アルシュファイドでは、こういったものに術を掛けてたりしますが、敷地の区切りを明確にして、視線を遮る程度であれば、充分ですよ。強行突破は、できますが、強行するほどの見返りは見込めません。いずれ、防犯の仕掛けを後付けすればいいんです。今は、強盗団などが居るわけでなし、壁の向こうの様子が判らないから入り辛いと、思わせるだけで充分です」
「そうなの…」
「ええ。様子が判らないところに、誰も入りたがりませんよ。先の見えない冒険だって、ある程度は、危険の予測をして、準備するものです。それをさせないことが、防犯になる。その程度の防犯で守ることができるように、この町は作っているんです。この辺りの者に、目的が不明瞭な者は、居ないでしょう?ただ目的地に行くために、通っているか、目的地を探しているかの、どちらかです。特に見回りの自警団を行き渡らせずとも、住民が異変を察しやすい。自衛しやすい。そんな守り方も、あるのです」
できる範囲で、叶うことを探す。
そうした、生活。
聞いたことを、自分なりに纏めようとしたとき、別の道と交差して、店舗通りに入った。
「こちらは、街道町の店の者も含め、住民たちが利用するための店が並んでいます。旅人も利用しますが、ここでしか求められないものというのは、少ないですから、旅の装備の補充程度ですね。品揃えは、住民の生活に即しているので、うーん…衣料など見れば、女性には、違いが分かりやすいと思うのですが、この辺りには、ありませんね」
広い歩道は、中央に黒い板が敷かれて、進行方向を示すようだ。
多くの人は、その板の端を、左側に寄って進む。
高い広葉の木が等間隔で並び、その向こうとなる歩道の端には、男の服装ならば越えるのに苦労のしない、縄を張った杭が並んで、通行を阻害する。
歩道の向こうは、馬車道らしく、広い道には、時折、人力も含む大きな車が通り抜けていく。
「あちらには渡らない方がいいし、まあ…、今は、こちら側に売られているものを、ご覧になってください」
車道の向こうにも、こちらと同じ広い歩道があり、店の並びがあるが、あちらを通るのは、避けたいということなのだろう。
たぶん、分かれることを避けているのだ。
それほど、時間に余裕があるわけでもないし、こちら側に見たいものが無いとは言い切れない。
カタリナは、興味深そうに店の方を眺めている、すぐ横のエシェルを見て、その視線の先を見た。
「何か興味を引かれるものが、ある?」
「興味と言うなら、どれもこれもですね…。私、屋敷の外に出ることなんて、茶会程度しかありませんから。学棟に通うのも、馬車ですし」
学習に必要な道具や、身の回りの品を補充したり、汚れや傷を原因として使えなくなったものを、急いで買い換える程度であれば、学院内の店舗で購入できる。
食品も、食堂や喫茶室以外で、販売する店舗はあるので、そちらからの購入は、経験している。
「ああ、いい匂いが!なんでしょう…フッカ?」
香ばしい匂いが通り過ぎ、足を止めると、どうやら、食べ物を売る店だ。
同じく足を止めたワティナが、言った。
「ああ、こちらでは、フッカも売るのですね…サズの粉で作る焼き物…ですね。食品です。まだ、食べられるようであれば、1品ずつ、買いますか?」
「いいの!?」
思わず大きな声を出してしまったが、カタリナは、楽しみな気持ちが勝って、恥ずかしさを覚えることもなかった。
「手早く買えば、問題ありません。セリス、マカス、同行して。ほかの皆さんは、お先に。土産にできるものがあれば、買ってきますね」
それほど広い店内でもないので、ワティナの指示に、ほかの令嬢は、残念そうな顔をしたが、不満を言いはしなかった。
カタリナの護衛セリス・ゼミニと、エシェルの護衛マカス・フリュートが同行し、ほかの護衛は、店の前で待機する。
5人で店内に入ると、店の中は、香ばしい匂いで、一杯だ。
ほかの客は数名で、ワティナたちの、服装としては、軍人とは思わせない、すっきりとした外套だが、腰の剣に目を留めると、軽く驚いて二度見する様子があった。
ワティナは、目が合った女たちに、にこりと微笑みを見せると、カタリナとエシェルを、店の商品の前に誘った。
「この辺りは、日持ちしそうですね。水分が少ないから。焼き菓子なんでしょう。何種類か、求めておきますよ。こちらの店の主力商品は、たぶん、あちらです」
店の中央から通り側、玄関がある方は、見た目に水分の少なそうな焼き菓子を中心に、既に包装済みの商品が並んでおり、様々な種類があるので、気にはなったが、ワティナは、さっと歩いて見る程度で、店の奥の方へと誘う。
店の奥には、透明硝子のような壁に覆われた棚があり、こちら側からは、見るだけしかできない。
商品名と、値段が明確にされており、横には、簡単な商品説明がある。
後ろの焼き菓子も多彩だが、こちらも、種類が多い。
「あちらの円盤を、たくさん買ってもいいですね、小さいですし、皆に配れます。その下のは、少し大きいですが、数が多いですね。そちらは、匙が必要になりますし、フッカではありません。ご自分たちの分だけ、求めますか?」
「いいえ!そちらの円盤、ええと、ミマルと、下の、ファシュにしましょ!エシェル、目移りするけれど、そうしましょう!」
多種類の商品には、選ぶ楽しみもあるが、置いてきた旅の仲間と、こんなだったと、話したい気持ちが、胸を叩く…!
「ああ、本当、残念ですけれど、時間が気になります…」
「それでは、決まりですね。あ、お願い。こちらの菓子は、数はどれほど用意してあるの?ミマルと、ファシュだけれど」
陳列棚の向こうで注文を待っていたらしい店の女が、即応する。
「あっ、はい!ファシュは、そこにあるだけで、追加を焼こうとしているところです。ミマルは、もう少しあって、ええと、間もなく追加が焼き上がるので、温かいものが良ければ、そちらは50個あります」
「では、温かいものを20個ずつ二袋に分けてくれる?あと、冷めているものを、30個ずつで二袋。食べない方も居るとして、4台の客車内では、まあ、余らせずに配れるでしょう。ファシュは、15個ずつ二袋、ありそうに思うけれど、いくらか少なくてもいいわ」
「ご用意します!お待ちください!」
準備をしている間に、ワティナは、店の表側に戻り、付いてきたカタリナとエシェルの意見を聞いて、いくつかの菓子を籠に入れた。
店の者に、これも一緒にと渡して、梱包と会計が整うのを待った。
「お待たせしました!会計を、お先に済ませてよろしいでしょうか」
「ええ、大丈夫よ。お願い」
支払いは、ワティナがしてくれて、その間に整った品物を簡単に確かめると、5人で分けて持つ。
「片手が空くようにしてください。いつでも」
そっとワティナが言い添えて、店を出ると、セリスとマケスの持っていた分は、待っていた護衛仲間に持たせた。
「それでは行きましょう。どうぞ」
進行方向に、旅の仲間は見当たらないようだったが、所々で寄り道をしている様子が見られた。
ある者は、店の奥まで行って、カタリナたちのように護衛の一部を通りに残していたし、ある者は、通り側から店を覗いていたりする。
それぞれに、アルシュファイドの騎士たちが付いていて、町を歩く住民たちの気を引き過ぎないようにだろう、護衛たちは、近付き過ぎないように位置取りするよう、合図したり、話をしている。
「ああ、このくらいの距離感が、楽ね…」
呟くと、ワティナが振り向いて、ちょっと笑った。
「ここは、ほかよりも、安全と言える町ですからね。その時々ですよ」
「あ、ええ。もちろん、そうよね」
答えて、なんだか、息を吐いてしまう。
「はあ。でも、うん。それなら、こういう町に、したいわ。フランシアも。ケイマストラ国の、ほかの町も」
ワティナは、笑顔を深めて、それから前を向いた。
そうですねと、返すところだと思ったが、答えないことに、意味があるような笑みに感じた。
「そうなると、良さそうですわね…。これなら、お父様も、許してくれそう…」
エシェルが、通り全体を見回しながら、呟いた。
こんな町に…なるだろうか。
でも何か、引っ掛かる。
思い出されるのは、赤い髪の青年騎士の顔。
…自分が何のために学ぶか、考えてみるといい。
何のために、学ぶ…。
こんな町になるように?
あのフランシアが、この街を彩るように、緑豊かな土地にできる…はずがない。
そんな土地はない。
分かり切っているのに、では、どうやって、………。
「見えてきました。乗車準備もできていますね。どうぞ、ファシュは、貴人方で分ければいいです。ミマルは、客車に一袋ずつ。…悪いけれど、これをお願い。私は外で、全員が乗るのを待ちます」
自分の持っていた袋を、護衛の1人に渡して、ワティナは、到着した区画の手前に残るようだ。
「ええ、分かったわ」
カタリナが答えて、ほかの一行は、まっすぐ進む。
見えてきたのは馬停なのだろう、客待ち用で、彼らの荷馬車は、低い柵に囲まれた区画の向こうで待っていた。
客車4台だけでも場所を取るのに、士人輸送馬車まで2台もあるので、ほかの利用者の都合を考えてのことだろう、馬車回しではなく、長時間待機用の区画に、出発しやすい形で停車している。
待っていたアルシュファイド王国の騎士に誘導されて、歩道に従って安全な道を歩き、客車に到着する。
ミマルとファシュの分配をして乗り込むと、ハシアたち年少の少女たちと、後部の高床部分に集まった。
ほかの組では、持ち帰ってすぐに食べられる食べ物を売る店には寄らなかったということで、いつの間に寄ったのだという咎め立てから、おいしいという満足な笑顔まで、受け取った。
お喋りに花を咲かせて、少し、馬たちの休憩で短時間の停車をする間に、カタリナは、寝椅子の区画に移動した。
ほかの少女たちも、背中を預けられる場所を求めて移動し、少し疲れた様子のハシアとヨクサーヌには、後ろの寝台と、片方の高床部を使って、横になるように勧めた。
高床の下には、硬めの反発材が収納されており、これは、重みを掛けると、よい具合に沈んで、受け止めてくれるのだ。
通常、体のすぐ下に敷く綿布の、さらに下に敷く物に近いが、それよりも、直接、体を横たえる用途に適うよう、沈み具合も特に柔らかいし、肌触りのよい布で覆っている。
ハシアが寝台で休んでから、高床を侍女と侍従に整えてもらうと、天井に吊るしてある仕切り布を、纏めていた壁から引き出して、個室の完成だ。
もう片方の高床部は空いていたが、気になるだろうからと、後部座席の仕切りを引き出すことで、丸ごと隔離した。
残ろうとする侍女には、前の椅子に腰掛けるように言い、寝椅子区画の背中側、通路との仕切り壁から腰掛けを引き出して、第2王女付き護衛隊隊長である女騎士、レーシィ・ホプキンスが控えることになった。
カタリナは、エシェルと並んで背を寝椅子に預け、遠い景色を眺め、目を閉じた。
背後では、小さな話し声が時折したが、聞き取れるほどのものではない。
ふわふわの肌触りの毛布は、少しだけ、ひんやりして、でも、体温を包んでくれる。
窓の手前には、薄い布が掛かり、軽く黒い色…離れて見ると、全体の印象では濃い灰色に見える、その窓布によって隠されているのか、たまに擦れ違う馬車の窓から覗く顔は、馬車そのものの立派さに驚いているようだ。
くすっと笑いを漏らすと、エシェルの様子が気に掛かり、右に顔を向けた。
あどけない寝顔が見えて、妹のようだと、また、今度は、声を立てずに笑う。
再び窓の外に目を戻すと、ケイマストラ王国内を見てきた様子とは違う、緑の多い景色。
川の流れなど、水場は見られなかったが、遠くに近くに見える緑の山が、地形の起伏を示していた。
違う国、という実感は持てなかった。
思ったことは、これが、外の景色なのだということ。
人の居ない、あるがままの土地の姿。
見てきた荒野が思い出される。
あれだけの国ではないと、知識としてでは知っている。
ケイマストラ王国の北部は、緑の色濃い、険しい断崖だと聞いている。
この旅で見た地図を思い返して。
この違いを、どう捉えればよいのかと、考える。
結論を出すことはできないけれど。
考えなければならないことだと、考えた。
そして、上の家族のことを考える。
王族の娘として、動かなければならないときは、きっと来る。
影響があるとしたら、妹のハシア。
近隣の王子…年頃としては、カラザール王国だろうが、思い出すだけで顔が歪む。
あとは、いくらか上過ぎるか、下過ぎるか。
ヴァッサリカ公国の公子たちのことは、考えない方が良いだろう。
上の者で、最も年が近いのが、レットゥオーレ王国の第3王子。
20歳なので、それほど違和感はないが、あちらの年齢として、求められる時が近くなってしまう。
そう。
もう本当に、留学なんて機会は、今を措いて、ほかにはなかったのだ…。
「…………」
思わず呟いてしまう名がある。
でもそれは、最も身近な、肉親でない異性だから。
心安いあまり、勘違いしているのだ。
言い訳に力が籠る理由を。
今はまだ、考えたくない。
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