留学者一行の旅路Ⅰ ケイマストラ王国を行く

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留学者一行の旅路Ⅰ ケイマストラ王国を行く

       ―旅の顔触れⅠ 馭者(みどり)―    こちらは、2台目の客車で、乗り込んだケイマストラ王国の王族は、第2王子グウェイン・ホートマシューズ・ペイドリット・ケイマスと、第4王子シリル・ステイ・グーンベリング・ケイマスと、第2王女ハシア・ミレイ・マナイアフォーラ・ケイマスの3人だ。 今回、アルシュファイド王国の招きで、ケイマストラ王国現国王の実子である、王太子含む王子と王女を6人、留学のため送り出すことになっている。 とは言え、20歳を過ぎた王太子と、ケイマストラ王国では成人と(もく)される年齢の18歳を過ぎた第2王子を、揃って国外に出すこと、それも長期に(わた)ることは、国政上好ましくもないので、彼ら2人は、3ヵ月から、長くとも半年を目処(めど)に、一旦は帰国することが決まっている。 彼ら、6人の王族の、同伴者として、1人ずつ同年代の者を送ることにもなっていて、王太子マクシミオ・リヴァイスト・ゼムリムス・ケイマス、通称リーヴだけ、年代としては下がるが、婚約者である公家令嬢ケイトリー・ヴァイマルベリスを伴うこととし、第2王子以下は、同年代、加えて同性であることを条件として、同伴者を選んだ。 留学者、と区別される者とは別に、彼らと同年代の調整者の男女も伴い、このほか、王太子と共に帰国する(さい)、役目を交代するが、アルシュファイド王国で成年と定められた20歳を越える外交官夫妻までが、主要な顔触れで、残りは、侍者と護衛たちだ。 ちなみに、調整者は、学習以外の交流部分で、段取りを付けるような役回りだ。 ケイマストラ王国で、貴族位以上の令嬢たちが参加していたように、茶会や夜会といった催事の参加など、アルシュファイド王国の段取りを、丸ごと排除しては、好意的な交流は望めない。 そのような相談役として、事前に必要な配慮を承知しておくことを求められての同行だ。 広く世界を学ぶ留学者とは違い、国家間に()ける差異を学び、()り取りでの食い違いを避ける、といった役割になるだろう。 それとは別に、外交官の同行は、王族の留学なのだから当然ではあるが、公式書類の()り取りでは、アルシュファイド王国は、20歳未満の未成年者の責任能力を完全には認めない都合もあり、いずれ交代する者も、どちらも20歳以上の夫妻であることを求められている。 そして、彼らとは別に、アルシュファイド王国の北の豪商クラン・ボルドウィンが出資する取り組みとして、貴族位以下も含む5名の令嬢が留学をすることになり、これに同伴するのが、やはり貴族位以下も含む5名の令息たちで、こちらにも、調整者の男女一組(ひとくみ)と、後見の夫妻一組(ひとくみ)が同行する。 今のところ、アルシュファイド王国が主導する留学を公的留学、私人クランが主導する留学を私的留学と呼称して、警護と旅程の円滑化、また、異国での同郷の者との親交を促すために、ひとつの旅団となっている。 特に、調整者は、全く同じ状況ではないが、互いに助け合えるだろうという期待がある。 ファム・ヴァイマルベリスは、ケイトリーの実姉ということもあり、公的留学の調整者の1人として同行している。 私的留学の女の調整者は、公家令嬢として同位となるテリーゼ・ベレヌゼフで、先ほどは、王女ハシアと共に外に出ると、戻ったときには、少し気分が優れないようだった。 崖の上から、崖下の王都フランシアを見てきたのだ。 王都出発後すぐからの、崖上りが一段落して、小休止のあと、同乗してきた、アルシュファイド王国の彩石騎士が(いち)赤璋(せきしょう)騎士の(ふた)()を持つアルペジオ・ルーペン、通称アルに促されて、ファムと、テリーゼ、そして、王族の3人、グウェイン、シリル、ハシアは、通路側に口を開ける、匚構(はこがま)えの、ゆったりと体を預けられる椅子で、机を囲んで座った。 当のアルは、通路を挟んで向かいにある寝椅子側に立つ、薄い壁型の支柱に背中を預けて立っていた。 「下から見ても、危険には気付いていただろうが、位置を変えると、見えるものも違ってくる。王都の足下(あしもと)にある分かれた川の流れだとか、両脇の崖や、足下(あしもと)の島の側面の植生の違いとか、全体の捉え方とかな。災害ってのは、忘れた頃に来るもんだ。俺としても、放置は適当ではなかったんで、バージェス陛下には許可を得て、アルシュファイド国の損益に関わるという観点から、調査に当たらせている。ケイマストラ国に調査能力があるかは知らないが、こちらで必要と思う項目を、調査させていないということだったんでな、そういう動きもある」 アルは、王子と王女だけでなく、高床(たかゆか)に腰掛けて、こちらに意識を傾けている少年たち向けにも話していた。 「国政に関わる者には、災害への備えも大事(だいじ)だが、留学者としては、あの地形が、人の住む場所として特異だということに気付いて欲しかった。世界には、様々な国があって、様々な土地に人が住んでいるが、その多くが、広い平地の中心に集まったり、海や川に面した土地を利用している。そういう違いを無視して、ほかの土地と同じことをしても、同じように成功するとは限らねえ。それを、実際に見て、感じて欲しかったんだ。自分たちの住む場所がどういうものだったのか。ほかの土地はどうなのか。考える時に、思い出して欲しいな。そして、それが、お前たちにとって、役立つものになればいいと願っている」 静かな声で終わった言葉に、胸に落ちる、何か。 いつの間にか、テリーゼもハシアも、気持ちを落ち着かせていたようだ。 顔色が良くなっている。 「ファムたちも、帰る頃には、あんな景色を見ても、落ち着いて受け止められるだろうからさ、見てみるといいぞ」 「あ、ええ。楽しみにしますわ」 王女ハシアが行くので、自分もと言ったとき、強めに止められて断念した。 テリーゼが、友人でもある第1王女カタリナが見るそれと、同じものを見たいと、だから、この場に残って欲しいと言い添えたこともあった。 けれども、崖の下を覗く、など、聞いただけでも胸が冷える。 そんな臆病な気持ちが大きかったことを、誰より知っていたので、ファムとしては、不甲斐ない自分自身に、割り切れない思いが残っていたのだが、アルの話を聞くうちに、強行するほどのことではなかったのだと、納得した。 「今は出発したばっかだから、用心で止めたけど、様子を見ながら、過激な光景も隠さないようにするな。まあ、この先の道に、あんな景色はなかったと思うが…」 「まあ、あまり危険な道が多くても困るんだが」 グウェインの言葉に、だな!とアルが笑う。 そういう笑顔は、年下の少年らしいが、確か、ひとつ上だったか。 ファムは、横に見える窓からの景色に気を引かれ、言った。 「随分と、岩が多いように思いますが、こういうものなのでしょうか」 赤みの濃い茶色い岩は、植物を寄せ付けないようで、風が吹く度に砂を舞わせる。 「いや、ここだけだが、しかし広範囲で、ここまで植物が少ないのは、何か理由があるんじゃないか。誰か、地図をすぐに出せるか?」 「手荷物にある」 シリルが、さっと立って、中央の手荷物置き場から、公的留学者全員に配られた、大きな折り畳まれた地図を取り出してきて、机に広げた。 この地図は、森林部には(みどり)に濃淡を付けて、その高さを塗り分け、(みどり)の無いところは、高さを、黄色に赤みを入れることで示し、水場は、深さを青の濃淡で示すという、そんな地図だ。 建物の密集具合は分からないが、町の大体の規模を、明るい紫色の破線を引いて示している。 国境線は、破線と同じ紫色で、途切れの無い線だ。 地図が用意される(あいだ)に、アルは、机の下から、()(もた)れの無い椅子を通路側に引っ張り出して、座っていた。 「あんまり、下を見過ぎると、気分が悪くなるから、気を付けな。フランシアは、ここだな。次の町、ゼノンてのは、実は崖の中にある町なんだよ。宿とかは、崖の上にあるからさ、俺たちが行くのは、そっち。ゼノンて町を、下に見ながら、(かす)めて通る感じな。だから、こことここじゃ、色が違うんだ。これで見ると、黄色と言えるのが、ゼノンの上にある宿町、白に黄色が入ってるのが判るくらいのが、ゼノンの町の中心部な。フランシアは、灰色だろ。そっから、島の足下(あしもと)に向けて濃くなってるのは、水はないが、深さを表してる。端っこに区別の仕方を書いてるが、完全な白は、水の無い海面の高さだ。黄色は、海上1サンガ。白から黄色の色変化では、判り(にく)いだろうが、海沿いの町が、まあ、ゼノンより、もうちっと、白いな。ゼノンは、内陸部では平均的な高さだろう。フランシアは、海面より低いってのもあるが、殊更(ことさら)、低い土地だと言える」 「つまり、この辺りは、海上1サンガ…以下と言えそうですね。少し高いようですが、それでも、全体的に赤みが少ないところを見ると、ケイマストラ国自体に、それほど高い、山と言える場所はない…?」 ファムの言葉に応えて、アルが頷いた。 「そう言えそうだな。北部の連山は、それなりに高いが、それだけのようだ。土地が険しいのは、深い溝が多いからだな」 「周囲と比べると、分かりやすいですね。ただ、(みどり)の色分けが、難しい…」 「(みどり)は、木なんよ。高木(こうぼく)な。人の倍ぐらいの高さ以上だ。そこは、色違いでなければ、高低差は無いんだ。いきなり、(みどり)から、黄色や赤になってるのは、そっから、地面が()き出しってこと。ただここ、ほかと違って、緑の中央が薄くなってるだろ。ここは、中央に向かって、土地が低くなってる。けど、この低い土地に、ほかより、はるかに高い木が育ってるから、外から見ただけで、内側の地面の高低は判らねえ」 「そんな場所は多いのですか?」 「いや、ケイマストラ国でも、ここだけだろ。俺は、色分けじゃない立体地図を見たからな。地図にも色々あるんだが、公的留学者の分は、色分けで高低と、森林と水場を区別するものにした。私的留学者は、どんなん?」 男の私的留学者の1人、ロウル・バステアが、自分が、と言って、手荷物から取り出してきた地図は、商人がよく使う、経路地図だ。 「これな。土地の高さなんかは、まあ、(みどり)の濃いとこが、高くて、青の濃いとこが深いって感じ。横に注意書きとかがあるから、所要時間と照らし合わせて、どんな装備が必要かが判るんだ。公的留学者に対しては、経路よりは、土地の違いを知ってもらいたかったんで、森林の有無が判る色違いにしてみたんだ。ただ、草花なんかは表示に含まれないからな、草原地帯や畑なんかと、今、通ってる、この辺の、荒野の区別は付けられない」 シリルが、地図の表面に指を当てて、なぞっている。 「経路地図には、草原の名とかある…ここは、灰石乾地(かいせきかんち)って名前がある」 「それな。来る前に聞いたんだが、そこは、風に(さら)されると、今、見えてるように赤色に変化するんだけどよ、岩の内側、元々の色は、灰色なんだそうだ。で、水の少ない乾いた土地ってんで、そういう名にしてんだと。ただそれは、アルシュファイドで、便宜上、付けてる名前。この土地に、名は無いらしいぜ」 「そうなんだ…」 「経路地図では、水場が判らないと困るからな。乾地では、休憩場にある取水所の(しるし)以外では、地図に示さない小川の流れなんかを期待するなってことだ。あと、乾地と草原じゃ、管理者の意向や草の種類にもよるが、牽引(けんいん)動物の食料の有無が分かれる」 「経路、つまり、これは、どこかに向けて行くための地図、か。ああ…」 経路地図には、旅に必要な情報はあるが、経路に(かか)らない情報ならば、削られる。 ひとつの地図で示される情報には、限りがある、ということだ。 それがこれら、経路地図であり、色別地図なのだ。 「そういうこった。警護の者たちに配ったのは、ロウルが持ってきたのと、同じ…かな。もう少し携帯に適しているはずだ。今回は、4国と海路図に分けて、計5枚を配ってるはずだぜ。分かれてるから、これより、もう少し土地の状況が判りやすい。町があるとか、食料を手に入れられるとか」 「見てみたいです…!」 近くに控えていたロウルの、強い呟きに、そちらに視線が集まったため、本人は慌てる。 「あっ。その…っ、」 アルは、にかっと笑った。 「おう、ボルよ。持ってっか」 アルの従者の1人、少年騎士ボルドゥーガ・リーチェ、通称ボルが、肩に乗せた2本足で立つ彩石動物の背から、背負い袋の中にあった地図を取り出した。 「こちらが、警護の者が共通して持つ遠望経路地図です。今回は、警護の者の立場と役割に違いがありますので、それぞれに、共通の詳細地図を渡してあります。こちらの変形金具で(まと)めて、携帯用としています。紙の大きさに合わせて、文字も小さいです」 確かに、かなり縮小されているが、立ったままで確認するには、片手で支えられる、ちょうどよい大きさだ。 手に持つのだから、文字などが小さくても、読み取りに苦労は無い。 「これは、素材が違うのですか?」 尋ねるファムに目を向けて、ボルは頷いた。 「紙自体の素材も違いますし、薄くて分かり(づら)いでしょうが、薄い(まく)で覆って、多少なら、水に濡れても文字が消えたり、破れたりしません。普通の紙だと、先ほどのように、丸めて筒状にすると、その形が残ってしまいますが、今のように、平らに近く置けるのは、この(まく)があるためです」 「なるほど、折り曲げると、(あと)が残りますし、段々と傷んでしまいますものね」 「はい。同じものを大量に揃えることは、難しいという問題もありましたから、留学者には、違うものを用意しました。クランさんにも、そのように話して、私的留学者は、人々の暮らし振りに注目してもらいたいということでしたので、そちらの地図になったのでしょう。よく商人が用いるものということでしたよ。同じ道の往復で警護を生業(なりわい)とする者なら、地図など持ち歩きませんが、アルシュファイド国から連れてきた警備師だと、今回の警護の者と同じような携帯地図を多用します」 「そうか。こちらは、分かれているから、全体図が…ん?」 「ええ、広域図は、裏面にあります。ただし、表の地図を中心として、縮小した広範囲の表示ですから、旅程全体を見るには、少々困りますね。そこで、この留め具を外して、こう…、広げて、見るわけです」 ボルが、地図の留め具を外して、机の上に並べ、経路を繋げて見せた。 完全に重ねることはできないが、経路自体は、どのように繋がるかが判る。 「すごい…」 ハシアが呟く。 地図なんて、見てもよく判らないと思っていたけれど、こうして並べられると、道だけでなく、土地も繋がっていくようだ。 「海路は、ちょっと繋げられませんけど、こちらは、裏面には、定期的な出航を行っている船の有無を書いています。ネッカ港は、ここ。最終目的地しか書いていないので、途中、立ち寄る港は判りません。この旅団は、丸ごと、アルシュファイド国の国営客船に乗りますので、立ち寄り先は、先にお伝えした旅程の通りです」 「確か、メノウ王国…でしたか」 ファムに応えて、ボルは笑顔で頷く。 「そうです。リオデスジャレイロは、王都ではありませんが、現在は、大変に(にぎ)わう町だと聞いています。港町の特質上、乱暴者も、見掛けるかもしれませんが、それが、港町というものでもあります。声が大きいとか、()れ違う(さい)に、体が、ぶつかることに無頓着であったりとかですね。もし、不安でしたら、馬車の手配も考えています。無理に街を歩くことはありませんし、少し港から離れて、船から見るものとは違う街並みを、ご覧になるのもいいでしょう」 「そうですね。通りを歩いて、ほかの(かた)と、ぶつかってしまうようだと、少し怖い気もします。………」 「それはまた、これからの町を見ながら、歩きながら、考えてみるといいでしょう」 「これからの町…」 「はい。今夜は、始めの町、ゼノンで、1泊します。到着予定は、13時となっていまして、昼食が遅くなってしまいますが、それ以降は、ゆったり休んでいただけます。女性の皆さんには、それぞれ、1時間ほど、宿の近くを散策していただくことを視野に入れて、宿泊場所には、15時の茶の用意を頼んでいるのです。付近は、旅人しかいないような街なので、それほどには、見るものは多くありません。男性には、ゼノンの町の中心地まで下りていただくことも考えのうちです。数人ずつで(まと)まっていただければ、警護の者も助かります」 「では、今から、それに向けて組み合わせを考えても?」 「ええ、どうぞ。それでは、参考までに、観光情報誌を、お持ちしましょうか。事前情報は無い方が良いでしょうか?」 ボルは、少し迷って、アルを見た。 アルも、少し悩む。 「そうだな…。ああ、そうだ。どうせ、雑誌の数は1冊か、2冊だろ。組み合わせを考えたら、何を見たいか、先導者が経路を考えながら決めたらいい。その時、雑誌を、みんなで見るか、先導者と、その補佐だけが見るかって、それぞれで決めれば」 そう言って、皆を見回す。 「男女で分かれるか、男女混合か。10時前後に、長めの休憩を取るから、あっちの馬車も顔触れに含めていいぞ。男女混合の場合は、男を1人以上、多くしな。護衛は()るが、私的留学者でなくても、同行する女、それから、目下(めした)の者には、配慮すること。女だから、子供だからと、悪いことを考える奴が、多くなる。その分、男は、動きやすいんだから、助けてやれ」 それは、ケイマストラ国の者たちには、無い考えだった。 女が弱いのは、当たり前。 若くて、(あなど)られるのは、当たり前。 だから、助けてやる。 慈悲を掛ける。 けれど、アルは、そうではなくて。 突き付けているのだ。 男だからというだけで、恵まれていること。 そしてそれを、自分たちは、なんのために使う者であるのかと。 助ける義理は無い? そうだろうか。 何もせずとも、ただ男であるだけで、弱者として虐げられないのは、ほかに、弱者が()る、そのためであるのに。 助けられているのに。 だからと、片端から、手を差し伸べることなど、できるわけがない。 弱者でないことは、弱者を助ける力がある(あか)しではない。 護衛は()るのだから、荒事(あらごと)に対する期待ではないのだろう。 助けてやれ。 どのように? 「でも、1人以上って、難しいよね?」 シリルが聞くと、アルは、軽く頷きながら答えた。 「女子だけの(くみ)もあると見てるからさ。引率の立ち位置で、リーヴ1人に女子が付いてくってのは、ありだと思うし、ほかにも、成人している者は()るからな。でも、お前ら未成年者には、単独では任せられない。必ず1人は、全体を見て、1人で助けを呼びに行ける者が欲しい。守るべき者が(そば)()る時には、自分で動いて守ることを考えろ。誰の手を借りてもいい。守る者の手を借りてもいい。これは、男だからでも、王族、貴族だからでもない。一人前(いちにんまえ)になるために、自分の足で立って、自分の頭で考えて、動ける者になるんだよ。今、これは、そういう機会なんだ。男だから出来ることを、この留学で学んでいけ。女子は、守られる分、ちゃんと周りを見ておけよ。強くならなくてもいいけど、自衛することを考えられる女の方が、格好いい」 ファムは、ちょっと、笑いの感覚を撫でられた気がした。 「ふふっ!確かに、守られて、(うずくま)っているだけは、格好悪い、ですわね」 アルも笑い返す。 「だからって、ワティナとかガリィとかまで、強くならなくていいからな!だいたい、男は女に勝てないって決まってんのよ。容赦してやるくらいでちょうどいいんだからな!」 「まさか、そんな。過大評価ですわ」 「女の強さは、力じゃないだろ!それを解ってないから、痛い目を見るんだよ!ここ、重要だから!シリル、心の手帳に(しっか)り刻んどけ!」 「それはさすがに、言い過ぎというものでは?」 テリーゼが、にっこり笑顔を見せて言う。 その声音に、笑顔に、何故だか震えが走って、青少年たちは、ちょっぴり、テリーゼに対して、足を後ろに引くのだった。
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