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ただ単純に
友人は、今度はこう言った。
「小児がんの子を助けたい」
「どうして?」
自分の口からでたのは疑問。
素敵な夢だと思った。
応援したいとも思った。
ただ単純に、友人にこう思わせたのが何だったのか、気になっただけ。
具体的に目標が決まっていることが、自分にはすごいことだったから。それがどうしてなのか、知りたかった。
たとえば、身近にお医者さんがいて憧れた、とか、実際に現場を見た、とか。
そんなことがあったのかもしれない。自分は、そんなことを考えていた。
ーーでも、違った。
「小児がんの、ドキュメンタリーを見たの」
その子は言った。
「自分より幼い子が、簡単に死んでしまう。それが可哀想だと思ったんだ。…親も、悲しいから」
それは何気ない言葉で。
ありきたりな言葉で。
とても素直な言葉だった。
その言葉が、自分の中にぽたりと落ちてきたようだった。
水面の上から垂れる雫のように。
落ちて、波紋が生まれて。
すっと湧き上がった感情。
ただただ、すごいと思った。
口だけ、とか偽善者、とかそんなことは思わなかった。
だって、この人がそんな人間じゃないことを知っていたから。
一切の疑問も、違和感も感じず、ただまっすぐと入ってきたその言葉。
ふとその時思った。
だからこの人はすごいのだ、と。
ーー自分は、きっと自分のためにしか生きられない。
何をやりたいのか、とかそんなことは何も分からないけれど、それだけはたしかだと思う。
自分は全然できた人間とかじゃなくて。
まずは自分のために必死に生きて、それが何かに影響して。結果的に人のためになればいい、とそんなことを願う人間だから。
だって、他人のために生きるのは辛いじゃないか。
自分のこともままならないのに、人のために生きるなんて自分にはきっとできない。
ーー自分にはその強さがないから。
だから自分は、実感しないと分からないんだ。
これは、最近知ったこと。
実感なんかなくても、理解はできるとそう思っていたけど。
何事も実感しないことには分からないのだ。
自分はそんな人間だから。
だからこそ。
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