さよなら

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 ベッドを降り、化粧室のドアを開ける。清潔さだけを売り物にした飾りのない洗面台の上、据え付けられた鏡を覗く。  少し疲れた、見慣れた私がそこにいる。  僅かに垂れた気弱そうな目。言葉を飲み込み続けた唇。色白の頬。墨を流したような色の髪。  どこにでもいそうな十六歳の女の子が、鏡の中から私を覗き返してくる。 「許されたい?」  女の子が問いかける。鏡に触れる。手のひらにはひやりと伝わるガラスの感触。  許されたなら。両親は笑ってくれるだろうか。公平君はまた隣にいてくれるだろうか。  力を使わず、全てを委ねて彼らの元で生きるのだ。今までしてきたように。これからもしていくはずだったように。  判断を任せ、逆らうことをせず、望まず、絶望もなく、いつも笑顔で、力を抑え、不意の事故など起こらないことを祈りながら。ずっと。ずっと。一生……死ぬまで。  溜息の理由は絶望ではない。理由などなにもない。
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