信心

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信心深い男がいた。 毎日欠かさず近所の神社へ向かい「本日も神様のおかげで何とかやってけました。」と唱える。そんな生活は定年後も慎ましく続いていた。 ある日、例のごとくお祈りをしていると、頭に何か当たった。足元に落ちたそれを摘み上げてみるとキツネの小判の様だった。何となしに自宅に持ち帰り妻に見せると「それ砂金じゃないの!」と大喜び。「毎日お祈りしてたアンタを見てご褒美をくだすったのよ!」と続けた。男も神様に認められた気がして嬉しくなった。明くる日もお祈りに行くとまたもや頭に落ちてきた。コツン。足元のそれはまたしても砂金だった。妻はまたしても大喜び。「アンタみたいな心の綺麗な人間と一緒になって良かったよ、ありがとうね!」と言った。それから毎日砂金は男の頭に落ち続けた。比例して男の家は裕福になった。増築に改築、毎日の食卓も一級品ばかりが並んだ。妻も美しく若々しくなっていった。そして男もそんな毎日に満足していた。ある日いつものようにお祈りに行った。ある時から砂金を落とさないように頭の位置に手を乗せていたのだが、いつまで経っても落ちてこない。「あれ?落ちてこないな?」いくら待っても落ちてこない。その日はそのまま帰宅した。「風でも吹いて横に逸れたんじゃない?」妻が目も合わせずに言ってきた。「たしかにそうかもしれないな。」そういう偶然もあるかもしれない。しかし、次の日も次の日も砂金は落ちてこない。こうなると妻も黙っていない。「あんた!ちゃんと見てるんでしょうね!私に隠してネコババしようったってそうはいかないわよ!」とお祈りに付き添ってきた。例の神社でお祈りするが何も落ちてこない。「クソ!今までのは何だったのよ!アンタがどうにかしなさいよ!」男も必死に祈るが全く落ちてこない。遂には夫婦揃って「おい!早く落とせよ!何なんだよ!」と神様に罵詈雑言の嵐。結局砂金はその後一度も落ちてこず、生活水準を落とせなくなった夫婦は貯蓄も食い潰し、終いには破産してしまった。 神様と悪魔が雲の上で一連の出来事を眺めていた。「また俺の勝ちだな、誘惑さえあれば人間なんてすぐ堕落しちまう。悪いことは言わねぇ、もうこの賭け事辞めないか?一生勝てないと思うぜ?」「いやしかし、次こそは、次こそは絶対に勝てる気がするのだ...」そ「お前がこの調子なのに勝てるとは思えねぇけどな!」悪魔の甲高い笑い声はいつまでも続いていた。
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