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被害者のいるという保健室へ向かうと、中から何やら言い争う声が聞こえた。
「分かっているとは思うけど。親衛隊内で起こった事件はそっちで責任をとって貰えるかな」
「っ、だからさぁ!何で俺がここまですんの!」
「でもその被害を起こしたのは君の親衛隊だろう?それとも風紀が動いてこの件に関わった生徒を全員退学にすれば満足かい?」
一人は片岡で、もう一人にも聞き覚えがある。
桐坂がうんざりした顔でくるりと背を向ける。
「やはり私はパスしますね。アレと会いたくないので」
スタスタと行ってしまい、残ったのは双子と唯川だけ。
すると、保健室の扉が開いて中から草薙が顔を出した。
「やぁ、黒斗くんと白斗くん。また会ったね。あの分家は尻尾を巻いて逃げたのかな」
色素の薄い笑みは天使のようなのに、そこに悪意が見え隠れするのはきっと気のせいではない。
それに唯川が反論して、
「……その方が、貴方と会話するよりよほど有意義だからじゃないかな」
「言うねぇ。ま、用事は済んだところだから」
また会おうね。
耳元で囁かれ、ぞわっと鳥肌が立つ。威嚇するように白斗が黒斗を側に引き寄せた。
「ふふ、そんなに警戒されると逆効果だよ。過保護な白斗くんに言っても無駄かもしれないけど」
何を言いたかったのかも分からないまま、草薙は去っていった。
まだぞわぞわした感覚が耳に残っていて、思わず強く擦る。その手を白斗がそっと止めた。
保健室へ入ると、片岡がいつになく険しい顔でベッドに眠る生徒を見ていた。
その生徒はとても可愛らしく、性別が男だとは思えないほどだ。この学園にはそんな生徒がごろごろいる訳なのだが。
「あれ〜来たんだ。被害者のコは無事だよ〜」
「……確かに、大丈夫そうだね」
すやすやと眠る生徒は目立った外傷はなく、魘されてもいない。見る限りでは平気そうだった。
人が増えてきて騒がしくなったのか、ゆっくりと生徒が目を開ける。そして、
「あ、はは。か、かた、片岡さま来てくれたん、ですねぇ。ふ、ふふ、あいつら、ざまぁみろ、だ」
そう、歪に笑った。
笑ったまま、被害者であるはずの生徒は続ける。
「あ、あいつら、泣くんです。『何でお前みたいなのばっかり』って。わ、笑っちゃいますよね。くふ、犯してるのはあいつらなのに、あいつらの方が泣くんです。ぶ、無様で、滑稽。そんなんだから選ばれないのに。僕の方が愛されてる、のに。ば、馬鹿みたいで、それで」
「もう良いよ」
加害者への嘲笑を遮って告げた片岡はひどく冷たい目をしていた。
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