さようなら

2/5

10人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
 数か月の後、新居が完成し、いよいよ引き渡しとなった。今回の引っ越しは2軒先だし、アパートからの引っ越しではないので、お父さんもお母さんもあまり慌てることなく、荷物の整理をしていた。  休日に一気に大型家具を移動し、電気屋で新しい家電を買いそろえ、いよいよ新生活が始まる。  僕のいる部屋も次々と荷物が運び出された。パソコンやプリンターはもちろん、タンスチェストも運ばれ、残されたのは古びたテーブルと僕だけ。  僕はいつまで経っても、運び出される気配はなかった。  お父さんは目の前を何度も通りすぎるのに、僕には全く気付かないような素振りで、僕の周りにあるものを運んでいた。  そして大方の物を運び終えた後、扉がバタンと閉められた。  僕は…持って行かないの?  もう僕は、用なしなの?  僕はまだ役に立てる。秒針だってちゃんと動くし、時々ずれることはあるけど、大きな誤差じゃない。ちゃんと時間を伝えられるのに!  僕はここにいるよ!早く僕を運んでよ!  真っ暗な部屋の中、僕は叫び続けた。しかしお父さんやお母さん、そして2人の子供達が戻ってくることはなかった。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加