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数か月の後、新居が完成し、いよいよ引き渡しとなった。今回の引っ越しは2軒先だし、アパートからの引っ越しではないので、お父さんもお母さんもあまり慌てることなく、荷物の整理をしていた。
休日に一気に大型家具を移動し、電気屋で新しい家電を買いそろえ、いよいよ新生活が始まる。
僕のいる部屋も次々と荷物が運び出された。パソコンやプリンターはもちろん、タンスチェストも運ばれ、残されたのは古びたテーブルと僕だけ。
僕はいつまで経っても、運び出される気配はなかった。
お父さんは目の前を何度も通りすぎるのに、僕には全く気付かないような素振りで、僕の周りにあるものを運んでいた。
そして大方の物を運び終えた後、扉がバタンと閉められた。
僕は…持って行かないの?
もう僕は、用なしなの?
僕はまだ役に立てる。秒針だってちゃんと動くし、時々ずれることはあるけど、大きな誤差じゃない。ちゃんと時間を伝えられるのに!
僕はここにいるよ!早く僕を運んでよ!
真っ暗な部屋の中、僕は叫び続けた。しかしお父さんやお母さん、そして2人の子供達が戻ってくることはなかった。
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