第一章 呪いのはじまり 1:少年の愛

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第一章 呪いのはじまり 1:少年の愛

「俺と結婚してくれないか。一緒に俺の国に来てほしい」  ぽかんとしているエルミラを見上げ、蒼い瞳の少年――フィルグラートは膝をついた姿勢を崩さずそう言った。  エルミラは混乱のあまり固まって、ただ彼に取られた自分の右手を見下ろしていた。  頭の中ではこの事態を理解しようと、思考が一生懸命に回転している。たしか今の今までふたりは明日のパーティの話をしていたはずだ。  そうだ、パーティ。エルミラの誕生日パーティ――。  十五歳。明日、とうとうエルミラは、ジルヴェール王国における女性の成人年齢になる。  予定されているパーティは当然、例年以上に豪勢で、半年も前からエルミラはその準備に追われていた。  ドレスの採寸、繰り返される試着、来賓や彼らの国に関する知識の学習、振る舞いの復習。  やらなければならないことは山ほどあった。  たった一晩のパーティを成功させるために。毎日毎日、彼女は必死になっていた。  けれど生来、エルミラはおとなしく勉強していられる娘ではなかったのだ。  彼女は国では『おてんば姫』として有名だった。幼いころから、両親のとめるのも聞かず、城の外で泥も(いと)わないほど活発に遊び回った。
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