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水曜日の終業時間がこれほど待ち遠しいと思ったことはない。
秋山は砂原と落ち合うと、適当に見繕っておいた店に移動した。
が、結局閉店時間まで粘っても砂原は何も話さない。話さないのではなく、話せないのだということは秋山にも分かった。こっちまで震えてしまいそうなほど、緊張しているのが見て取れたからだ。
「少し歩くか?」
頷く砂原と駅に向かう途中にあった公園に入る。そうして暗に水を向けてやってようやく砂原は観念したようだ。
「あたし、やっと吹っ切れました」
砂原がそう言うので、「よかった」と返すと砂原はふくれっ面をした。
「振った人が振られた人に向かって言う言葉じゃないと思います」
悪ぃと詫びつつ、でも「よかった」と言ったのは心底そう思ってのことだった。
だって、一区切りつけないと先に進めない。
俺も砂原も。
秋山の言葉に砂原はぴくりと反応を見せる。その様子を横目で盗み見て秋山は、新しい前髪はやっぱり似合うなと思った。
「にしても、あいつら気の毒だったな、すれ違っちゃって。俺の全部読んだんだろ?最後の方はもはやラブレターじゃないか?」
「さあ? 秋山さんがそう言うならそうなんでしょうね」
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