1.見つめる彼女

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 教育委員に任命されている秋山の次なる仕事は、新入社員用に用意された従業員規則や福利厚生についての社内資料や、本社ビルに入る為の磁気カードの配布並びに本人確認である。 「磁気カードと引き換えにここに名前書いてなー」  カードを渡しながら、右往左往する新人らを大声で誘導する秋山に、同期の酒田がぼそりとイチャモンをつけてくる。「見ろよお前んとこの列、女子ばっかだぞ。少し分けろや」 言われてみればさっきから女子の名簿にばかりチェックをつけている気がする。 「秋山ぁ、新人に手ェ出すなよ。さっきはどの子見てたんだ?」  別の教育委員まで小声で参加してきて、秋山は「うるせぇ」と一蹴する。 「社内じゃ誰にも手ぇ出してねぇし! 無駄口たたく暇あったら、お前らも誘導しろ」  これだから顔いい奴はさぁ、なぁ? とふざけ始める連中にもう一度噛みつこうとした秋山だったが、業務モードに戻った酒田の声に呼び止められた。 「悪い秋山、カード切らしたからこの子そっちで受け付けて」  君、隣に行ってくれる? と誘導されてきた女子社員は、リクルートスーツを身にまとい髪はシンプルに後ろで一つに束ねられ、いかにも新入社員独特のハツラツとした眩しさを伴っていた。それなのにその瞳は戸惑いの色にあふれ、長いまつ毛も伏せがちに秋山の前に立った。  正面から顔を合わせて、一瞬ドキリとした。
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