11.俺と彼女と青春と

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 砂原から接触があったのはそれからひと月も後だった。  といっても、同じ職場の良し悪しで顔を合わせないわけにもいかず、この1ヶ月の間に業務で一緒になることもあれば言葉を交わすこともあった。  気まずいなりに無事な姿を見て秋山はホッとしたりもしていたが。  休憩エリアに入ってすぐに「秋山さん、」と背中を声が追いかけてきた。  一瞬誰だかわからなかった。というか、声はわかったが、予想して振り向いた姿がいつもと違っていたからだ。   「――髪型変えた?」  急いでいるのか、砂原はそれには答えず声を潜めた。   「今度、時間作ってもらえませんか」    あっちから声をかけてくるなんて珍しい、などとのんきに思っていた秋山だが、これにはさすがに驚いた。  その一瞬の間に「嫌ならいいですけど」と砂原の声が拗ねる。  意地っ張りは健在か、と苦笑いながら秋山は答えた。   「水曜日はどう? 定時退社だからお互い都合つきやすいだろ」 「はい。じゃあ、今度の水曜日に」  手短にそう言うと砂原は身をひるがえした。 「――俺が言ったから? って聞いたらまた怒るんだろうなぁ」    砂原の前髪のことだ。  短くなった前髪は軽く横に流されていて、隙間から形の良い額が見えていた。いつか草津で見た砂原に近いと思った。秋山が可愛いと言った時の砂原だ。  そう思うのはうぬぼれだろうか。  試しにいつか訊いてみるか。  性懲りもなく秋山はそんなことを思った。    ◆  
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