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予想していた反応とは少し違っていたので、秋山が言葉を詰まらせると、
「あたしだって成長するんですよ」
そう言って、にぃっと砂原は笑った。
一瞬それに見惚れた秋山は、ならば好都合、と立ち止まる。
小首を傾げながら砂原もそれに倣い秋山と向かい合う。
「どうしたんですか?」
「実は俺もラブレターを書いてみたくなって、試しに書いてみたんだけど」
そう言って、秋山は鞄に手を入れた。
紗良はなんともいえない表情で目を瞬く。
秋山は鞄の中から出した空の手を紗良に見せた。
「からかってるんですか」
さすがに険呑な色を目に浮かべた紗良に、「いや書いたのは本当」と慌てて言い募る。
「書いたけど、なんかしっくり来なかったんだ」
だから。
秋山の言葉に懸命に耳を傾けている紗良の手を取った。
ゆっくりと体を引き寄せ、頬に指を添えると、紗良はひとつ瞬きをした。
「大人には大人の伝え方をしたいなと」
逃げる隙は十分に与えたつもりだ。
言い訳を乗せた唇で秋山は彼女の唇をそっと奪った。
fin.
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